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どうなる? 介護保険

衆議院厚生労働委員会で改正案を可決

 5月27日、衆議院厚生労働委員会(以下、委員会)で、介護保険法改正案「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」(以下、改正案)が民主党、自民党、公明党、みんなの党の賛成で可決されました(共産党と社民党は反対)。採決では修正案(社会医療法人の特別養護老人ホーム参入を認める項目の削除)が加えられ、附帯決議案が全会一致で可決されました。
 衆議院での審議は、20日の質疑(3時間15分)、24日の参考人質疑(2時間44分)、25日の野党質疑(5時間15分)を経て、27日(2時間22分)という短時間での終了となりました(審議内容は、衆議院テレビのビデオライブラリで確認してください)。
 委員会での質疑には、東日本大震災関連の支援対策、福島原発事故関連などのテーマもあり、改正案についての議論は7割程度という印象でした。
 今回は、4回開かれた委員会での政府答弁(細川律夫・厚生労働大臣、大塚耕平・厚生労働副大臣、岡本充功・厚生労働大臣政務官、宮島俊彦・厚生労働省老健局長ほか)と、参考人質疑の主なポイントを紹介します。

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「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は包括報酬の予定
 改正案は「現在の財源の制約のもとで可能な限り保険料の上昇を抑え」、新サービスの創設、介護職員による医行為の実施など「効率よく質の高いサービスを提供するため」(細川大臣)に提案されました。
 新サービスとして提案されたのは、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」と「複合型サービス」で、前者は「今回の改正の最も重要な目玉」(大森彌参考人、社会保障審議会会長)です。どちらも市区町村が指定する地域密着型サービスで、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は訪問介護と訪問看護、「複合型サービス」は小規模多機能型居宅介護と訪問看護、訪問看護がセットになるのが特徴です。
 「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は「生活援助はどの要介護度でも週2回、身体介護は要介護5で1日1回という利用率で、要介護4・5の要介護者の在宅生活は支えられない。しかも、要介護3~5の利用者の55%が2種類以下のサービスしか利用していない」(大森彌参考人)という実態を改善するのが目的とされています。
 24時間対応で「早朝や朝食時、お昼、3時ごろ、夕方、準夜と定期的に入るのと、随時の安心を組み合わせ」、サービス提供事業者は公募制で「市町村が選考基準を設けて、公正に選考して指定でき」(大塚副大臣)、介護報酬は「サービスの必要量やタイミングが変化するので、包括払い報酬を基本に介護給付費分科会で審議」(宮島老健局長)する予定で、夜間労働については「老人保健施設職員に兼務を認めることも検討」(岡本政務官)するそうです。今年度は43自治体がモデル事業(厚生労働省2011年度予算27億円)を実施予定で、「ぜひ、被災地でモデル事業をやっていただきたい」(細川大臣)とのことです。

ケアマネジャーによるケアプラン作成支援への懸念
 「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」ではケアマネジャーによるケアプランの作成支援が想定されていますが、「『共同マネジメント』の形が必要という指摘」(宮島老健局長)もあり、「ホームヘルパーと訪問看護師が巡回するが、ケアマネジャーが指揮者としてケアプランを立て、サービスが動いていくしくみが逆転するのではないか」(木村隆次参考人、一般社団法人日本介護支援専門員協会会長)という懸念も示されました。また、木村参考人からは「大学教育を制定し、独立経営できるようケマネジャーの国家資格化を」という要望も出されました。

不明瞭な「介護予防・日常生活支援総合事業」
 地域支援事業の「介護予防・日常生活支援総合事業」は、市区町村の判断で導入を決めるとされています。事業内容は、介護予防サービス(予防給付)と介護予防事業(これまでの地域支援事業のひとつ)、“配食、見守りなど市区町村の生活支援サービス”の3つをまとめた「総合的サービス」(宮島老健局長)です。
 大森参考人は「介護保険の最大の意義は、認定を受けると要介護度に応じて支給限度額が決まり、限度額までサービスが使える権利保障」と説明しましたが、要支援認定者が介護予防サービス、もしくは介護予防事業と“配食、見守りなど市区町村の生活支援サービス”のどちらを選ぶかは「市町村と地域包括支援センターが決定するが、本人の状態像と意向で判断する」が、「本人の意向を尊重して従来の介護予防サービスの利用も可能であることを徹底したい」(岡本政務官)という答弁です。
 地域支援事業は介護保険財源の3%が上限ですが、「介護予防サービスのすべてが総合事業に変わるわけではないので、ただちに引き上げる必要ではない」(大塚副大臣)といいます。

「介護職員処遇改善交付金」
継続か介護報酬に組み込むかは年内に判断

 2012年度までの時限措置になっている介護職員処遇改善交付金は、介護職員の給与引き上げが目的ですが、「交付金事業でやるのか、介護報酬でやるのかふたつの選択肢」(細川大臣)があり、「2013年度以降、どうつなげるのか、年内に結論を得る」(岡本政務官)予定です。

「喀痰吸引等」は実地研修が課題
 社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正では、都道府県の研修を受けて「認定特定行為業務従事者」に認定された介護福祉士などによる「喀痰吸引等」の医行為を認めることが提案されています。モデル事業では「対象者の病状が不安定で、期間中に入院、あるいは死亡する人がいて、実地研修の回数がなかなか確保できず」、「家族のいる前で、介護職員や看護師、利用者も大変な緊張を強いられた」(佐藤美穂子参考人、財団法人日本訪問看護振興財団常務理事)と報告されました。
 また、「『喀痰吸引等』を行う介護労働者の賃金水準を示し、医療事故が起きた場合、事業所と労働者の保護制度を設けるべき」(田原聖子参考人、東京介護福祉労働組合書記長)という要望あり、「実施にあたっては、緊急時の対応など安全確保措置を講じることを要件とする」(細川大臣)ことが説明されました。ちなみに「周辺に十分に対応できる医療施設がある場合は、そちらでやるのが望ましいという考え方も組み込まれている」(大塚副大臣)そうです。

療養病床廃止の6年延期は「転換期間」
 介護保険が適用されている療養病床は、2012年度末までに介護療養型老人保健施設などに転換して廃止する予定でしたが、「6年間延長する間に、転換を促進していく」「転換にかかる費用には交付金や融資制度などで支援し、介護報酬でも誘導できるようにする」(細川大臣)と説明されました。

成立に向けた今後の流れ
 委員会では多岐に渡る質問が出され、「限られた財源」であるにもかかわらず新サービスを増やし、要支援認定者の「権利保障」はあいまいになり、介護職員の給与水準の維持は年内に検討予定で保留状態という改正案の内容が明らかになりました。今後は衆議院本会議で採決、参議院に送付、参議院厚生労働委員会での質疑、参議院本会議で採決という流れになります。引き続き、参議院での質疑に注目したいと思います。


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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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