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どうなる? 介護保険

介護保険法改正案 その2

 東日本大震災の影響で気持ちが沈みがちですが、報道などで被災した人たちが復興に踏み出す姿にふれると大いに励まされます。しかし高齢者の状況については、『36%、1万人が高齢者 県が避難所調査』(岩手日報4月5日付)、『人あふれる高齢者施設、介護環境悪化』(読売新聞同6日付)など、深刻な状況も明らかになってきています。
 厚生労働省は今月5日、被災者向けに『生活支援ニュース』の配布を開始し、その第1号では、医療・介護支援について「介護サービスも、まだ要介護認定を受けていない場合でも利用できます」「被災された方は、診療代や介護保険料がかかりません」と呼びかけています。
  前回紹介したように、現在「災害介護」が目前の課題となっています。では、本体の介護保険法はというと、大震災当日に改正案(介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案)が閣議決定され、4月5日、第177回国会に提出されました。
 ひとことで改正案と言いますが、内容は概要法律案要綱法律案案文・理由法律案新旧対照条文参照条文と分厚いものになります。
 なかでも気になるポイントのひとつは、要支援1・2の利用者を市区町村(保険者)の判断で、介護保険サービス(給付)のメニューを地域支援事業(市区町村事業)に移していいという“見直し”です。

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前回の改正の目的は利用制限?
 2005年の法律改正で、介護認定は要支援認定(要支援1、2)と要介護認定(要介護1~5)に分かれ、要支援認定を受けた人は介護予防サービス(予防給付)を利用することになりました。
 介護予防サービスのなかでも需要が高いホームヘルプ・サービス(介護予防訪問介護)とデイサービス(介護予防通所介護)は、費用(介護報酬)が月単位の定額制になりました。厚生労働省は「毎月決まった金額で、必要に応じて何回でもサービスを利用することができます」と説明し、国会でも尾辻秀久・厚生労働大臣(当時)が同じ答弁を繰り返しました。
 しかし、法律改正に続く介護報酬の改定では費用が低く設定され、2006年度以降、サービスが週2回から1回に減らされる、5週目は利用できないなど、実質的な利用制限(給付抑制)が進みました。
 また2005年の法律改正では、市区町村が実施する地域支援事業が新設されました。地域支援事業は“介護保険を財源とする市区町村事業”というわかりづらいものです。いずれにしても、介護保険のお金で運営される地域支援事業の中心は、(1)要支援認定者のケアプランの作成支援(介護予防支援)、(2)介護認定予備軍の人たちへの「筋トレ」(筋力トレーニング=運動器の機能向上)などを中心とした介護予防事業の2つです。

介護予防サービスと市区町村事業の“総合化”
 国民健康保険中央会の「認定者・受給者の状況」(2010年上半期平均)では、介護保険サービス利用者約406万人のうち約83万人が要支援認定者で、全体の2割になります。そのうち80歳以上が約30万人です。
 今回の改正案では、“地域での自立した日常生活の支援のための事業”として、地域支援事業に「介護予防・日常生活支援総合事業」(第115条の45)を新設するとしています。具体的な内容は厚生労働省令で定めるとされ、国会審議でどのくらい説明されるのかもまだわかりません。法律案文で読み取れるのは、市区町村が「介護予防・日常生活支援総合事業」の実施を決めた場合、要支援認定を受けた人は“介護保険サービスを利用する”のではなく、“市区町村事業を提供される”可能性が高いということです。

「利用者が選ぶサービス」から「生活援助」が外される?
 何がどう違うのかというと、「介護予防・日常生活支援総合事業」では、市区町村が要支援認定を受けた人たちに独自事業(配食サービスや見守りなど)の提供をすることになります。
 事業者の条件は厚生労働省令で定められ、市区町村が事業メニューと委託事業者を指定し、利用者は市区町村と契約を交わして事業の提供を受けることになります。また、この事業と重ならない介護予防サービスは、これまでどおり利用できるそうです。
 “配食サービスや見守りと重なるサービス”といわれて思い浮かぶのは、ホームヘルプ・サービス、特に「生活援助」メニューです。今回の介護保険法改正案が国会で成立したとしても、厚生労働省令や介護報酬改定を待たないと、「介護予防・日常生活支援総合事業」の具体的内容は明らかになりません。しかも、“保険者の判断”で新事業を導入する市区町村がどのくらいあるのかもまだ、わかりません。
 「介護予防・日常生活支援総合事業」の新設で危惧されるのは、(1)「認定を受けた人がサービスを利用する」「利用者がサービスを選ぶ」という介護保険制度の原則を変える、(2)2005年の改正に続いて介護保険から「生活援助」を排除する傾向に拍車がかかるという2点です。
 被災地域の医療・介護では、医療などの緊急対応が終盤を迎えつつあり、慢性期医療や介護支援の必要性が高まっていますが、介護保険制度本体は、高齢者の暮らしを支えるサービスの縮小という正反対の目的に向かっていると思われます。


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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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