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和田行男の「婆さんとともに」

認知症が値引き交渉

 テレビが欲しくて仕方がない婆さん。
 念願かなって、職員と一緒にテレビを買いに家電量販店に出かけた。婆さんは大型テレビが欲しかったが、子どもはそんな大きなテレビは要らないと、これから先々のお金のことも考えて予算を3万円と決めた。
職員は子どもさんの意向を十二分に汲めるので、少しでも手元に残してやりたいと考えるが、婆さんにとってそうとは限らない。
 店に入る前に、職員が婆さんに「精いっぱいまけてもらおうね」と声かけると「そんな恥ずかしいこと言えない」と、「子や職員のこころ婆さん知らず」である。

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 「よねさん(仮名)、これなんかいいんじゃない」
 と、2万円少々の国産19型テレビを指すと、
 「そんな小さいのはだめ。こっち」
 と、外国産29型を指す。値段を見ると2万29800円。
 これを買ったら200円しか残らないと考えた職員は、真ん中をとって、22型外国産2万3800円のテレビを勧めてみると、
 「いや、小さくてダメ。あっち」
 と、どうしても29型に頭が向く。
 しょうがなく店員さんを呼んで29型テレビの値引き交渉をするが
 「もう値段はギリギリなので、アンテナコードをサービスさせてもらいますから」
 と譲ってくれない。
 ところが、そこから婆さんが本領を発揮!
 「ところで兄さん(店員を指して)、あっちのおっきいのいくらだったかね」
 「2万9800円です」
 「そう」
 「こっちの真ん中のはいくらになるんだね」
 「2万3000円にさせていただきます」
 「うーん」
 職員に「どう思う」って意見を聞いても、なお
 「ところで兄さん、あのおっきいのいくらだったかね」
 「2万9800円です」
 それを10回ほど繰り返したので、さすがに店員もげんなり。
 そんな店員のことなんかちっともかまってない婆さんは
 「ところで兄さん、あのおっきいのいくらだったかね」
 を執拗に繰り出し
 「わかりました、2万9000円にさせていただきます」
 と譲らせた。
 それでも「買う」とは言わず(言えず)迷い続け、同じ質問を繰り返すものだから、店員さんもさすがに「げんなり」から「うんざり顔」へ。
 職員も自分のことだから納得がいくまでと思ってはいたが、さすがにみかねて
 「お兄さん、2万8000円にならないの」
 と念を押してみた。
 「わかりました、お持ち帰りしていただけますよね。それで手を打たせていただきます」
 ホッとした店員の顔が印象的であった。

 読者の皆さんならお分かりかと思うが、婆さんは値切り交渉のために何度も繰り返し聞いたのではない。
 大きなテレビが気になって仕方がないのと、値段を覚えられないために何度も聞いただけなのだが、店員さんは認知症があるとは思ってもみない。
 そのため、「執拗に値引き交渉されていると思い込んでいた」としても、年寄りだけにムゲにできなかったのだろう。一生懸命応じてくれた(ホント、ありがたいことです)。
 婆さんいわく「自分は値引き交渉なんてできない」というのは事実だとしても、彼女にくっついた認知症が、結果的に相手を黙らせてしまうほど執拗な値引き交渉をさせてしまったということだ。

 テレビが映らなくなって大騒ぎし、夜中に何度も子どもさんのところに電話をしまくり、自分がどうしても欲しくなった29型テレビを大騒動の結果手に入れ、即日クルマの中で抱きかかえるようにして持ち帰ったにもかかわらず、施設に着くなり「私はこれから台所仕事にいかなくっちゃいけない」と、テレビと職員をほかってリビングに去って行った婆さん。
 その逞しさに、ただただ感服するのみであった。


コメント


さすが!婆さん‼
今日、ひさしぶりの四人集まり楽しいひと時
和田さんて凄いよね!四人同感!
あそこまで出来なくとも、そう思いながらするのと思わずにするのと、まったく違うよね!
四人揃って うん。
今日はとても良い日でした。


投稿者: むらさき | 2013年05月28日 19:24

テレビを真剣に選んでいる微笑ましい光景が浮かんできました。

人生の先輩方の逞しさに頭が下がります。


投稿者: わたる | 2013年05月30日 23:57

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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