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和田行男の「婆さんとともに」

ダメはダシ

 どんな仕事をしてもそうなんでしょうが、「自分には向いてないかもしれない」と、わかったようなわからないような理由で落ち込むことがあります。

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 施設に入居してこられてまず初めに手をつけるのは、入居者の状態を把握することですが、僕は婆さんが水虫にかかっていると早々に水虫退治にとりかかります。
 皮膚科で診てもらい、薬をもらい、毎日のように消毒液に足を浸し、その後に薬を塗ります。
 入居して数か月たったある日、経験の浅い職員が、タメさん(仮称)に「いつものように水虫のお薬を塗りましょう」と声をかけると、「そんなものは持ち合わせていません。失礼な」と怒られ、拒まれてしまいました。
 職員にとっては毎日やっていることなので、いつもどおりお誘いした結果なのですが「昨日と同じようにやれば今日も同じようにできる」という手はずだったのでしょう。
 ところが、認知症という状態にあるタメさんにとってはそうはいかなかったということです。
 この職員にとって、お誘いして拒まれたのは初めての経験でショックだったようで、随分と落ち込んでしまい「この仕事は向いてないかもしれない」と言い出しました。
 そんなとき先輩たちがどんな声をかけるのか、それもとても興味がありましたが、声をかけた数人に共通しているのは「気にするな」程度の話しかしなかったのです。
 婆さんの支援にあたっている家族や施設で仕事をしている専門職は、認知症が進行性であるということを知ってはいますし「認知症があっても人として」なんてお題目のように唱えていますが、タメさんのように実際の場面では、そのことをすっ飛ばしてしまいがちです。
 こんなときこそ、婆さんを・認知症を理解する絶好のチャンスで、このうまくいかなかったことを自分たちの英知を絞って徹底的に解明することです。
 このときのキーワードは「昨日のタメさんは今日のタメさんではない」ということです。
 これは何も認知症という状態にある人だけに言えることではなく「人としての共通」なのですが、認知症は進行性であり記憶の逆進性を伴うことなど、認知症の特徴も併せて考察していきます。
 そうすると「落ち込むことではない」「『気にするな』で済ませてはならない」ということが明らかになってきます。
 つまり職員の不向きによって起こったことではなく、未知に対する無知・無見識から起こったことなのです。
 誰もにそういうところがあるでしょうが、人には「きげん」というのがあって、そのときの気分や感情によって出方(表現)に違いを生じます。よく「今日は上機嫌やな」とか「機嫌が悪いから今度にしよう」ということがありますが、それは人が時とともに変化する生き物だということを表わしています。
 しかもそれは、その人の内からくることもあれば、外との関係性でそうなることの両面をもっています。わかりやすくいえば「自身に腹痛が起こって機嫌が変化する」こともあれば「他人との会話によって機嫌が変化することもある」ということです。
 また認知症は進行性といわれていますが、何が進行すると考えればよいかと考えると、もちろん原因となる疾患自体が進行していくこともそうでしょうが、原因疾患によって知的能力が衰退し生活に障害をきたしている状態を認知症というのであれば、知的な能力の衰退が進行するわけで、わかっていたことがよりわからなくなっていき、できていたことがよりできなくなっていくと考えることが必要だということです。
 タメさんの場合も、そのときだけでなくその職員とタメさんの関係性に何かなかったか、ここ最近の言動から進行と判断できるようなことはなかったか、あるいはこれから先そのことを意識してタメさんの言動に気を払って検証しようということが大事だということです。
 僕らはいつも「人として」と「認知症という状態にある」の両面で考察し、婆さんの変化に変幻自在に自分を変化させて応じることができる専門性を備えなければなりません。
 自分には向いていないかもしれないなんて言っている自分は、無知を放置している自分をごまかしているだけなのかもしれない。そう自分に問いかければ「知らなかっただけ」「わからなかっただけ」で「向いていないのとは違う」ということがすぐにわかることでしょう。
 ただし、そうやって「考えることそのものをしたくない」となると、その人にはこの仕事は不向きかもしれませんがね。
 ダメだったことも「立派な経験」で、その経験も時間に制約のある人生にとっては「限りある資源」で「次へのダシ」にしなければもったいない限りです。
 ダシの効いた婆さん支援ができる素は「ダメ」だということを忘れないようにね。


ご案内
「たっぷり認知症」講演会
主催:株式会社波の女

 地域包括ケアが謳われる中「地域包括ケアをヒモ解く」要素がいっぱい詰まった講演会です。

 第一部は、「医療と医療、医療と介護の連携・熊本モデル」とも言うべき先駆的な実践の開拓者である池田学医師に基調講演をしていただき、池田さんにNHK教育テレビ福祉ネットワークでおなじみの町永さん、名古屋市内で奮闘しているケアマネさんも加わっていただき「医療と介護の連携」をテーマに深めます。
 第二部は、全国各地の「まちぢから」を取材しているNHK町永俊雄キャスターに基調講演をしていただき「町のあり様」をテーマに深めます。
 早くから認知症コーディネーターの育成やSOSネットワークを展開してきた福岡県大牟田市でその中心に座っている池田武俊さんと、地域のネットワークづくりに尽力している半田市の社会福祉協議会の方にも加わっていただきます。
 全体として盛りだくさんの内容になっていますので体力が必要かと思いますが、とっても時期を得たお得な内容です。

■日時:2012年2月9日(木)14時~20時
■場所:ウインクあいち 大ホール(愛知県名古屋市)
■参加費:3000円
■定員:400名
■第1部:14時~16時40分
基調講演「認知症最前線」
 池田学氏(医学博士 熊本大学教授)
討論会 「医療と介護と認知症」
 池田学氏
 町永俊雄氏(NHK福祉ネットワークキャスター)
 現場のケアマネジャー
 和田行男(コーディネーター)
■第2部:17時~19時40分
基調講演「認知症を支える町ヂカラ」
 町永俊雄氏
討論会 「認知症・町ぐるみ作戦」
 町永俊雄氏
 池田武俊氏(大牟田市保健福祉部調整監兼福祉事務所長)
 社会福祉協議会職員
 和田行男(コーディネーター)
■申し込み方法
ファイルをダウンロード
◎波の女ホームページより
http://www.nami-no-onna.co.jp


コメント


ある程度の経験を得て新しい職場に移った頃、ひとりの入居者さんに、どうしても受け入れてもらえないという事実にぶつかりました。

経験者であるはずのプライド、私がここでやっていくために超えなくては、という勘違いにある時ふときづいたことは幸いでした。

この人のために私という(専門職)がいる。だから上手く関われないことで困るのはもちろん私ではなく、この人のはず。このまま関われなければ、最期に私ができる最善の方法は、自分が身を引くことだという覚悟ができたその日から
なんと受け入れてもらうことができました。これから仕事をしていく中で、忘れないできごとになりました。
悩んでいたときに、まわりの人たちがおしえてくれた、関わり方の方法は、そっと引き出しにしまって、こんどそんな悩みをもつ人が表れたら、「チャンスだよ!」と見守り一緒に考えられる私達に成長したいです。たくさんの引き出しの中身は考えたあとに活きてくるかもね。


投稿者: 夜勤ヘルパー | 2012年01月29日 02:01

 夜勤ヘルパーさんへ

 脳って面白いですよね。
 和田行男って目に映る実在は一人かもしれませんが、本当は人は1人なんてことはなく、1人の中に何人もの人(思考)がいるんですよね。
 僕は自分の中の何人もの自分に会うのが、人生で一番の楽しみです。


投稿者: わだゆきお | 2012年01月31日 09:49

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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→ご注文はe-booksから
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