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和田行男の「婆さんとともに」

介護報酬改定論議にモノ申す

 『介護保険情報』という雑誌が出ているが、最近発行された211年10月号に掲載されていたある記事を読ませてもらって愕然とした。

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 記事を書いた筆者がどういう方かは知らない。
 名前だけで判断して申し訳ないが、間違えていなければ介護保険制度について非常に大きな影響力をもつ方と同一人物かと思うので、なおさら看過できず、僭越ながら意見を述べさせてもらうことにした。
 筆者はグループホーム1ユニット9名当たりの月額介護報酬額2354957円を基に、人件費75%・事務経費20%・収益5%とはじき出し、職員5名なら月額353,244円、職員6名なら月額294,370円は給与として支払えるはずで、そうなっていないのは介護職員に配分していないからだと書いている。
 僕はグループホームの収支を語る上で、著者が人件費を75%として算定していることは、国の22年経営概況調査結果介護報酬に占める給与費比率69%からみて妥当な線だと思っているが、職員体制を5名及び6名として「これだけ給与が払えるはずだ」としている点は問題視している。

 共同生活住居(ユニット)ごとにグループホームの介護職員の配置を満たしていくには1ユニット当たり次のようになる。

 まずは試算する上での条件設定
(1)連続する勤務16時間を超える勤務を発生させるので、1か月単位の労働時間制をとるのが望ましいと考え、年間休日数は113日とし、31日の月は10日休日が発生するとした。
(2)平均勤続年数を3年程度とし、年次有給休暇数の平均付与数年12日とし、1か月平均1日取得するとした。
(3)(1)+(2)で1か月の休日数を11日(=就業日数20日)とした。
(4)1日の勤務者は、日中帯3:1基準の24時間(8時間×3人)を越えるために、日勤帯に2人(8時間勤務者2人)夜勤者1人(連続する16時間勤務)の4勤務(これで日中帯の合計27時間)とした。
(5)試算するに当たって、1か月10日の公休だと年間120日となり、(1)に記載した113日を7日オーバーするが、それらは「研修の機会」や「慶弔休暇」や「病欠」などを考慮してシミュレーションする。

 そうすると…
■1日4勤務×31日=月に123勤務発生
■全123勤務÷職員1人20日勤務=6.15人が必要

 1年単位の変形労働時間制にすると
■1日4勤務×365日=1360勤務
■年間休日108日+年次有給休暇12日=120日休日
■1360勤務÷職員1人245勤務=5.55人が必要

 つまり、介護保険法や労働基準法を満たしていくためには介護職員は6人以上必要となり、1年単位の変形労働時間制でも5.55人は必要となる。
 確かに2ユニットを1人夜勤すれば介護職員がユニット当たり5人でまかなえるが、1人夜勤は災害や事故、職員の不意の事故や病気などアクシデントに対して脆い組織(職員体制)であり、ましてや労働基準法上の問題(休憩時間のあり方)もあると考えられ、利用する国民や従事する職員の側に立って考えると、それを誘導するかのような話にはくみできない。
 また、それ以外に管理者や計画作成担当者の配置が義務づけられており、さらに経営者(達)や株式会社なら出資者の取り分も必要で、職員数5や6で割り返すのは理にかなっていない。ましてや先週書いたように、介護保険法上の管理者と労働基準法上の管理監督者の課題もある。
 仮に介護職員6.15に、管理者0.5、計画作成担当者0.5、それに経営者達の取り分1.0を足すと、8.15となる(1年単位なら7.55)。
 筆者が言うように人件費75%・原資1766218円を8.15で割ると、1人当たり216700円ほどで年額にして260万円である。7.55で割っても233900円ほどで年額にして280万円にしかならない。しかもこれは夜間勤務をして割増賃金を得てである。もうひとついえば経営者の取り分を同額と考えてである(あなたは年収260万280万円の経営者に夢をもてますか? 経営者になりますか?)。
 これを2ユニットにしたとしても、共同生活住居ごとに人員配置が決まっているグループホームでは、夜勤を1人にする以外、ほとんどスケールによるメリットは生じない。
 ちなみに22年介護事業経営概況調査結果によると、グループホーム(定員平均14.7名 常勤換算職員数12.6人)の常勤換算職員1人当たり給与は234831円となっており、介護報酬に占める給与費率は69%となっている。
 筆者は著名で影響力のある方のようなので、根拠をもって書いた記事であり、きっと職員5人で労働基準法・介護保険法を遵守するグループホームの運営ノウハウをもっているのだろうが、多くの経営者ならびに現場関係者は「?」を感じ「怒り」さえ覚えているのではないだろうか。
 また筆者は「食費と書いて原材料費+調理費」としているが、グループホームでは食材料費の徴収しか認められていないことも正確に書いていただきたい。
 逆に、介護報酬に占める給与費の割合が69%であるにもかかわらず収益率が高いということであれば、介護報酬以外の「その他の収入=家賃、食材料費など」が支出を上回って収支差益を生んでいる構造が見え隠れする。
 つまり、実費相当の徴収になっている食材料費を実費以上徴収して差益を生ませるなどであるが、これは介護報酬論議とは別枠で事業者のモラルを問うことが必要であり、行政指導等で適正化を図るべきである。
 同時に、22年経営概況調査に表れている介護老人福祉施設の常勤換算職員1人当たり給与は310470円であるが、グループホーム職員や小規模多機能型居宅介護職員(同224158円)も同水準の給与となるよう介護報酬を見直すのが筋である。
 その理由は、介護老人福祉施設の職員1人当たりの利用者の数は2.0人、グループホームは1.3人であり、国民(利用者)にとってサービス受給量が多いところで働く職員の給与が低いのは、どう考えてもおかしなことであり、介護老人福祉施設職員の給与が決して高いわけではなく、この国の平均的労働者の給与水準だからである。
 ちなみに、現行の介護報酬のままグループホームで介護老人福祉施設職員なみの給与を支払うと、介護報酬に占める給与費率は90%を超える。
 逆に介護老人福祉施設で介護報酬に占める給与費率(57.5%)を変えないでグループホームと同じ人員配置にすると202000円ほどに下がり、介護報酬に占める給与費率をグループホームと同じ69%にすると243000円となり、同じような給与水準になる。
 介護保険制度のスタートとともに日本中に広がったグループホームの灯りを絶やすことがないよう、介護報酬で平均的労働者の給与が支払えて健全な経営ができるようにしてもらいたいのと同時に、行政指導官の能力を引き上げて経営の適正化を図り、国民はもちろんのこと、健全な経営を行う事業者をも守ってもらいたい。
 同時に事業者・事業者団体は、行政にだけではなく、同じ事業者に対してもモノ申さねばならない時期を迎えている。
 これからグループホームの介護報酬改定論議がされるようだが、こうしたことを踏まえて議論していただくことを切に願っている。

追伸
 いよいよ名古屋市で仲間とともに立ち上げた株式会社波の女による事業所の建築がスタートした。来春4月1日付の開設を目指している。これから起業や事業所立ち上げについての「生ばなし」を書いていきたいと思う。
 介護保険制度の功罪の「功」は、志のある連中が起業して24時間型入居施設を開設できるようになったことで、しかもその連中が税を納めることにある。
 それまでの24時間型施設の中心は社会福祉法人の運営で非課税なのだから、国家・国民にとっては喜ばしいことだ。
 でも借金の返済金が利益とみなされて納税額算出対象になるなんて、経営をやっている連中にしかわからないだろうな。厳しいのだ。


コメント


 先日は、フォーラムの講師としてお越しくださり、誠に有り難うございました。京都までのお話も、今後の励みになりました。生ばなしも楽しみですが、また大阪でも何かグループホームを盛り上げる企画を一緒に企んでみたいものです・・・


投稿者: yokoyan | 2011年10月26日 22:48

分かりやすい、収支構造をありがとうございました。GHを4年運営していますが、ほんと腹立たしいですね。


雑誌の著者にはぜひ職員5~6人でグループホーム1ユニットを運営してもらいたいものです。運営基準も労働基準法ももちろん遵守して。外部評価で求められる項目の達成もできるような質の担保も。ケアし易い方だけを選りすぐって入居させる、ってのもは無しで。
さー、できるかな?


投稿者: たろ | 2011年10月27日 13:00

お疲れ様です。

出勤して、申し送りして、現場入って。休憩も取れない日もある。申し送りして時計を見ると、ほぼ退勤時間。そこから記録を書き書類整備。

残業しないよう、休日出勤しないようと言われても。
有給休暇も取るようにと言ってくださるのはありがたいが、じゃあこの業務を代わりにお願いしたいと伝えると、それは無理、あなたがやってと言われる。
トイレやお風呂に入っていて携帯に出られないと、緊急事態なのに出ないのはどういうことかと言われ、旅行先に連絡が来て、緊急だからすぐ来るようにと言われても。。。

経営陣に具体的に困難である旨説明しても、国の基準は満たしている・よそはやれている と回答が。。。
時と場合によっては、能力が低いためできないのだから努力するようにと言われ。
悔しいのでPC入力等力をつけた。その上で、この状況でPC共用では業務が進まない。PCを増やしてほしいとお願いするが未だに増えず。。。

介護保険の管理者とは一体何か。
オーバーワークになって疲れ果て辞めていく仲間。
兼務兼務でルーティーンワークさえ滞る。
強い想いで開業したものの、下手すると自分が持ち出しをし、休みもなく働く先輩や仲間。。。

現在の国の基準でのサービスで、国民はよいのか。
そうした議論ができるようにしたいと思う。


投稿者: まんまる | 2011年10月27日 21:35

 1ユニットのみの弱小経営者です。
 和田さんの意見に強く同意です。さらに言わせて頂くと、この中には、社会保険等事業者負担金が考えられておりません。
 基本的に週40時間働く人が4人以上であれば、社会保険の加入が必要です。当然上記のシフト体制を考えれば、社会保険加入は必須。今年の当法人の例をあげれば、この事業者負担金の割合、健康保険4.75%、介護保険0.755%、厚生年金8.029%、児童手当拠出金0.13%、雇用保険0.95%、労災保険0.3%と、計約15%弱!したがって、本人手取り額は、さらに少なくなります。
 給与明細には出ませんから、労働者本人はあまり意識無い方が多いですが、労使折半で事業者は給与から天引き分に上記負担分上乗せして、納めております。したがって、年収、給与はもっと下がります。
 また、年収には関係ありませんが、賞与をだすためは、月額報酬はもう少し下げざるを得ません。結局手取り月15~18万てところです。


投稿者: 弱小経営者 | 2011年10月28日 01:26

徐々に収入が下がっていく。それも覚悟の上いくつか職場を変えてきました。給与費率と人員配置を同じくすると、介護老人施設とグループホームの給与水準は変らなかったんですね。収入を減らしてまでも利用者のより大きい利益(サービス量だけみても)がある環境で働けることは改めて誇り。
現行の介護報酬の体系は「利用者にとってより有益な環境をつくろう」とか「それを存続させよう」としていないよなあ。と思って減っていく収入になんとか納得してきました。


投稿者: 夜勤ヘルパー | 2011年10月31日 14:18

和田さん、みなさん、こんにちは。

 一昨日、自分が退社した老健に行ってきました。そうしたら、老健なのに特養みたいでした。トイレ排泄できる方が何人もオムツになっていました。施設の理由で新しい施設を作るため職員を減らしたものの、施設の人間関係・職場環境が悪いため職員が入らず、出て行く一方・・その付けが御利用者に・・・。なんでも施設の理由・・「そんなのかんけいねぇ~、そんなのかんけいねぇ~」と言いたいくらいです。私が「尿道に入ってしまった便を微温筒で流したい」と伝えたら「他の施設でやれば」と言った施設長。あくまで施設中心。結果、この姿・・・・。あなたも、雇われ身分なのにね・・・・。
 しかし、良い話もあって、特養が新型ユニットにするそうで、その中で、御利用者とご飯を作るそうです。(神奈川の特養)
 私も、転職を繰り返し、大変な生活をしていますが、御利用者が少しでも人間らしい生活を出来るところを探しています。求めています。
 国会議員・公務員のお給料が高くて、困っている方に回ってこない。お医者さんが偉くて、自民党に入れていれば大丈夫と信じて疑わなかった高齢の方が悪いといえば一理はあるとは思いますが、事態はそれだけでは済まされない現状です。
 未来はすぐそこまできています。あぐらはかけません。今の政治から変えていきたいけれど、手段が見つかりません。このままではだめだということだけはわかります。


投稿者: 寺内 美枝子 | 2011年11月01日 16:50

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プロフィール
和田 行男
(わだ ゆきお)
高知県生まれ。1987年、国鉄の電車修理工から福祉の世界へ大転身。特別養護老人ホームなどを経験したのち99年、東京都で初めてとなる「グループホームこもれび」の施設長に。現在は大起エンゼルヘルプでグループホーム・デイサービス・小規模多機能ホームなどを統括。2003年に書き下ろした『大逆転の痴呆ケア』(中央法規)が大ブレイクした。

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