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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

ハーグ条約について

 別れた妻の子どもを連れ帰ろうとしたアメリカ人が、日本で警察に捕まるという事件があった。不起訴になってアメリカに帰国したのだが、元妻に子どもを拉致されたとして、こんどは元妻の方がアメリカで犯罪者として指名手配になった。この事件があってからアメリカは「ハーグ条約を日本も批准すべき」と圧力をかけるようになった。

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 ハーグ条約とは「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」だ。国際結婚した人が離婚した場合に、子どもを連れて、無断で実家に帰ることが国際的に見て、拉致になると言うものだ。まるで北朝鮮のような話だが、アメリカの夫側の「日本人妻に子どもが拉致された」という主張には「両親共に親権がある」という考えがある。それに比べて日本は単独親権で、母親が一旦子連れで離婚すれば、父親はまったく子どもに会わせてもらえないという問題もある。もちろん数は少ないが逆の場合もある。

 問題になった事件は、数も最も多い、アメリカ男性(多くは沖縄の米兵)に日本人妻というカップルだ。アメリカや欧米では「離婚しても、子どもは両親のもの」という考えがある。そうかもしれないが、DVとかは圧倒的に男性の方が多いので、元日本人妻は子どもを連れて、安全な実家のある日本に帰ったりする。また逆手に取って子どもを元夫に会わせないために、元妻が虚偽のDVの訴えをする場合もある。こういう場合は往々にして泥仕合になるので、日本では民事不介入が主流だ。冒頭の事件では、夫の不倫も絡んでいる。日本にもDVを防止する法律はあるけれど、アメリカでは刑事罰だが、日本では民事罰だ。アメリカほど個人主義が徹底されていない。

 しかし日本では離婚した場合、母子家庭で育てる場合もあるが、女性が子どもを連れて「実家に帰らせてもらいます!」がまだ主流だろう。これを男女の親がお互いに独立した個人として、法が介入するようにしてはどうか?子どもは母親(あるいは父親)のものなのか?それとも両親のものなのか?日本ではまだまだ父親側で跡継ぎや墓守りに引き取る、家制度という習慣もある。この親権の問題こそ、民主党が進めるハーグ条約の批准の前に、議論すべき問題だと思う。国際離婚は例外的だとして、小手先のことでハーグ条約を批准すべきとは思わない。国際結婚はこれからも増えていくので、同時に国際離婚も増え続けるだろう。

 ハーグ条約も、30年前にできたもので、DVとかは問題になっていなかった時代のものだ。ただ親同士の争いの解決を目指しているものだ。国際的には「DVは別枠の国内法で裁く」と言うことになっている。「日本が批准の条件としてあげているDVは、ハーグ条約にはそぐわない」と言うのが、アメリカ欧米の考えだ。
 DVのアメリカ国内の裁判で転居が制限されれば、日本の憲法の住居の自由に抵触してしまう。また日本が批准している「子どもの権利条約」の「親子の出入国の自由」にも抵触してしまう。アメリカでは「子どもの権利条約」はまだ批准されていない。日本もハーグ条約の批准は急ぐべきではないだろう。


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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