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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

結婚帝国―女の岐れ道(part5)

 『結婚帝国―女の岐れ道』(上野千鶴子、信田さよ子著、講談社)を読んで思ったことをまとめる。今回が最後だ。

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 では、ピア•カウンセリングの場において、プロのカウンセラーはどういう存在なのだろうか? 本の中で信田さんはこう言っている。
 「じゃあ、わたしがなぜ専門家としてお金をもらえるかと言えば、一つは情報量の多さがあると思います。もう一つは、自らのコアになる経験があったとしても、それは、ある意味で、非常に希薄であるからこそ、自らの経験を相対化でき、それゆえに多くの人の多様な経験に寄り添えるのではないかということ」
 「医者でもなくピアでもないニッチ(隙間産業)で、何ができるかということですね。さっき上野さんもおっしゃったように『ニーズにとことん添う』というのは一つの方向ですよね。だけど、わたしはそれとは少しニュアンスが違って、『わたしという人間があなたという人間と出会って、あなたという人間はこういうニーズを持っている。それにとことん従うことはわたしの職業倫理であるけれど、わたしが一人の人間としてあまりにも許せないことは「イヤです」と言いますから、そういうわたしがイヤならば、ほかのところに行ってください』と、かなりはっきりと主張するんですね。そうなると、これもピアの変形かなという気がしてくる」

 ぼくは相談を受けるときには、信田さんの言うように「あなたと出会って出会いを大切にして、言いたいことを言いますが、気に入らなければ他の人に相談してください」と心の中では言っているつもりだ。
 信田さんは「(カウンセラーとホステスとどこが違うかというと)やはり理論だと思うんですよ」と言っている。たしかにオヤジがホステスに指名料を払って悩みを聞いてもらってすっきりとすれば、それはそれで、カウンセラーと同じだろうと思うし、世知に長けたおばあちゃんに聞いてもらってすっきりすることもあるだろう。だいたい、年長者が自分の人生観を語ったり、本にして出したりすることなども、広く人間同士のピア•カウンセリングかもしれない。
 信田さんは言う。「密室での一対一の関係は、おっしゃるとおり危険です。なにしろ二人っきりですからね。二者関係は夫婦でも見られるように、容易に支配関係に転化していくでしょうし。…やっぱり『秘密をこの人にだけ打ち明ける』という関係を求める人は多いですし、『カウンセラーを一時間独占できる』という満足感は代えがたいでしょう。自助グループに参加する一方で、非当事者•専門家であるわたしに一対一のカウンセリングを求める人も多いんです。わたしたちはサービス業です。危険説を防ぐために、一応、臨床心理士の倫理規定もあるんです。責任の問題もあります。…わたしたちは、有料であることにおいて、お金を払ったクライエントに対して、一定の満足がいくようにさせていただくという責任を負っているわけです」

 これを読んで、長い目で見れば資本主義の中でしたたかに生き延びている、技法も理論も確立されたカウンセラー業界は今後も発展してくだろうけれど、商売として成り立っていない草の根的なムーブメントであるピア•カウンセリングは資本主義の発展に伴い、淘汰され衰退していくのではないのかと思う。カウンセラーの学会では、ピア•カウンセリングなどはまったく相手にされていないらしい。
 ぼくは、業界での医者やカウンセラーやケースワーカーの、強制やコントロールを含むパターナル(父親的)な専門家支配を批判して、「患者の自立」を機会をとらえて訴えてきたのだが、まったく先は見えない。患者の側に依存心があるから。ぼくだって、弱り果てたときには、専門家にすがってしまう自分がいるってわかっているから。


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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