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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

好きなことを仕事にするのか、趣味に止めておくのか

 仕事をする人、誰でも考えることだろう。以前、パソコンが好きで、アイコン制作会社に入ったけれど、「自分のやりたかった仕事と違う」と1年くらいで辞めた若者がいたそうだ。

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 誰でも、「好きなことして食っていければ最高だ」と思うのではないだろうか。
 しかし仕事というのは、「人の役に立つことをして対価をもらう」というシステムだ。でもたいていの人にとって「好きなことというのは、たいてい自己満足であって、人の役に立たないこと」じゃないだろうか。「人の役に立つことが好きなことだ」と言う人がいたら、それは「共依存」の可能性があるし、自己評価が低すぎる可能性もある。かつてのぼくも重度の共依存だったのだが。
 バイクの好きな人はチューンアップを繰り返したり、ぼくの好きなことでいえば、ロックや時計のうんちくをたれたり、鉄道模型の細部にこだわった作り込みなど、人の役になんて全然立たない。もちろん、バイク好きで知られる戸井十月の世界一周はテレビとタイアップして撮影されているし、プロのロックバンドになったり、鉄道模型のジオラマを作り販売して生計を立てている人はいる。
 「幸福とは、(1)人に愛されること、(2)人にほめられること、(3)人の役に立つこと、(4)人に必要とされることです」という文章に出合った。このうちの(2)から(4)までは、仕事によって満たされる可能性がある。だから人は幸福に近づきたくて、障害者でも働きたいと自然に思うのかもしれない。しかし現実には、「世間から外れたくない」とか「金は何より必要だ」と思って仕事をする人も多い。
 しかし、他人とやる仕事には常に時間厳守と締切厳守、顧客の要求を守ってオーバースペックにならないように、ある程度までで凝るのをやめる必要が出てくる。ここがアマチュアなら、仕事上気に入らない人がいれば避けることができるし、時間を気にせず、徹底的に凝りまくることもできる。時間を気にせず凝ることは、自分の根気の限界を知ることでもある。作っているものが完成して達成感に浸ったあと、醒めた目で自分の作品を眺めてみると、自分のレベルの限界を思い知ることになる。

 ぼくは30歳前に一人で、父の病院の給料計算プログラムをパソコンで作った。それを期に、「プログラム作成は面白いから、仕事にしよう」と思い立って、知り合いのソフトハウスに、「バイトをさせてくれ」と頼みにいって雇ってもらった。訪問販売事務のシステムをすぐに任された。しかし一日8時間、頭を酷使するのはつらく、休み時間に近くの畑を散歩して疲れを癒した。それに、すぐに画面の使い勝手やデザインや色に凝るぼくは、「仕事が遅い!」といつも社長から叱られていた。基本的にクライアントの要求だけを最低限満たせばいいものを、ぼくはオーバースペックのものを作りたがった。
 そのソフトハウスは月給15万円だったが、「25万円出すから、うちに来ないか」と知り合いに誘われて、職場を移った。そこではもっとシビアだった。誤りなく、仕様書通りに作ることを要求された。しばらくして、そこでの仕事が減って暇になったので、人材派遣に登録した。派遣されたプロジェクトは、焦げついた食品会社のシステム立ち上げ要員だった。朝8時から夜10時まで働かされ、緊張した雰囲気の中で、タバコ休憩もはばかれた。2週間たって夜眠れず朝が起きれなくなって、電話で「辞めます!」と言って逃げ出した。それではおさまらず、幻聴が再発して再入院になり、1年間の入院生活を送った。
 この苦い経験で、「自分は障害者だから働くことには向かない」と消極的になり、「好きなことは仕事にしないほうがいい」と悟った。主治医のいう「こころに余裕をもって生活すること」がいかに大切かを学んだ。そのためには、目標のレベルを下げていって、妥協して楽することが大切だと気づいた。

 今は、鉄道模型のジオラマ作りに凝っている。休日は、自室にひきこもって作っている。いくらでも「こうすれば面白い」という凝ったアイデアが湧いてきて、もともとがいつまでに完成というのがないので、どんどん完成が伸びて、その過程を楽しんでゆっくり作っている。締め切りもなく実に楽しい。
 しかし半田ごてをもつ手が震えるとき、トランジスターの型番の文字が小さくて判読できないとき、「歳を取ったな」と、衰えを感じる。
 休日に「何をしてもいい、あるいは何もしなくていい」という時間をベッドでゴロゴロしていると、「涙が出そうなくらい孤独を感じる」ときもあるけれど、「ぼくは今最高に自由だ!」と喜びに震えることも多い。
 ぼくの仕事分野は福祉だが、競争社会からは相当遠い分野だ。ぼくは競争が嫌いだから、マイペースでやれるのはありがたい。上司のいない環境なので、思ったように振る舞える、あるいは、さぼってお昼寝ができる。メンバーも優しいから寝かせておいてくれる。電話がかかると起きるのだけれど。スペインにはシエスタというお昼寝の習慣がある。ベトナムにもお昼寝の習慣があるようだし、結構世界各地で行われているらしい。日本でもお昼寝の習慣を取り入れてみてはどうだろうか?


コメント


 佐野さんのブログ2年ほど前から読ませていただいてます。
 精神福祉に関心があり、1年前に講座を受講して今障害者授産施設で作業ボランティアをさせてもらっています。
 利用者の方は皆さん一生懸命作業に打ち込んでおられますね。
 頑張って生きてこられたんだなと思って応援の気持ちで見ています。
 私も精神疾患ではありませんが、自律神経失調症でさまざまな不調を抱えています。
 結婚以来仕事に就くことなくぬるま湯のように生活してきたんだなと改めて思い、怠惰な自分を恥ずかしく思ったり、こちらが励まされるような感じがします。
 大したことはできませんが、少しでも役に立てたら嬉しいのです。
 障害を抱えている方への偏見の目がなくなってほしいと思います。
 そういう啓発のための映画やイベントをもっと増やしてほしいと思いますね。


投稿者: はじめまして | 2010年03月28日 11:51

 読んでくれていたのですね。ボランティアという立場は負担が少なくていいと思いますよ。啓発のイベントは精神保健ボランティアさんも開いてくれています。


投稿者: ばびっち佐野 | 2010年04月26日 20:49

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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