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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

一緒にいてもひとり(part1)

 ある朝、いつものように魚を焼く。
 夫はじゅうじゅうと音を立てている魚しか食べない。
 いつものとおりタイミングを計って食卓に出す。
 リビングの隅で、夫は新聞を読んでいる。
 「ご飯できたわよ」背中に話しかけても返事がない。
 「ご飯、できたよ」しばらくして話しかける。
 夫は新聞から目を離さない。
 どうしよう、魚が冷めてしまう…。
 魚が冷める頃、夫はテ−ブルにつき、
 魚の上に手をかざし、温度を測るふりをした後、
 魚の皿をわきに置く。
 「俺にこんな冷めた魚を食わす気か」
 じっと魚の皿を睨み付ける。

 私はまた立ちすくむ

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 これはモラルハラスメント被害者同盟のホームページ(注1)の表紙からの引用だ。モラルハラスメント(モラハラ)とは、精神的暴力のことだ。言葉や態度による虐待のため、目に見えにくく、顕在化しにくい。自己愛性パーソナリティー障害(注2)の人が加害者になりやすい、と言われてきたが、最近『一緒にいてもひとり』(カトリン・ベントリー著、東京書籍)を読んで、別の見方もあるのでは? と思った。
 この本は、すれ違い夫婦の夫がアスペルガー障害をもっていることがわかり、工夫を重ね離婚の危機を乗り越えていく話だ。アスペルガー障害とは、知的障害を伴わない自閉症といわれている。また自閉症に分類するには疑問があるとする見方もある。

 ギャビンという男性と知り合ったカトリンは、その優しさと仕事のできる魅力に引かれ、結婚した。しかし、カトリンが相談に乗ってほしい時や、手助けのいる時に、ギャビンは「ぼくは楽しむために君と結婚したんだ。問題を抱えるためじゃない」と拒否した。ギャビンの口癖は「一緒にいても、ひとりひとり、その方が簡単なんだ」だった。カトリンは、人の痛みがわからないのは、夫の身勝手な性格によるのかもしれないし、障害によるのかもしれない、と思った。
 カトリンが足を痛がっていると、ギャビンが親切にもマッサージをしようと言った。突然カトリンは鋭い痛みを感じた。「痛い!」と悲鳴を上げても、ギャビンはニコニコとして続ける。「どうしてやめないの?」と叫んでも、彼は驚いて「やめてっていわなかっただろ?」「言ったわ、痛いって言ったわ」「「痛い」は「やめて」じゃない」「「痛い」というのは「私は痛がっています」ということなの」「へえ、ぼくは痛いのは好きだよ。君が「痛い」って言ったら、ぼくは君が喜んでいると思うよ。やめてほしいのなら、「やめて」と言わなければ」。結果カトリンは孤独を感じる。
 これを読んで、ぼくは最低限度の四角四面のことをする行政の窓口対応を思い出した。行政といえば、一日中、書類の不備を「ああでもないこうでもない」と何回もつつきまわって、「もう堪えてくれ」と目で訴えている申請者などに見向きもせずに、完璧な書類を完成させることだけに一生懸命、仕事している人もいる。こういうとき、この仕事は、「アスペルガーでないとできない仕事かもしれない」と思う。
(part2に続く)

注1)http://www.geocities.jp/moraharadoumei/
注2)パーソナリティー障害という概念は問題が多く、「人格に問題がある」と言っているに過ぎないから、障害なのかどうか? 最近発達障害が広く知られるようになって、多くの発達障害者がパーソナリティー障害と誤診されてきたのでは? とぼくは疑っているし、また幼児期のトラウマによる複雑性PTSDだろうという場合も多いのではないのかと思う。


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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
ムゲン http://www7.ocn.ne.jp/~lutheran/
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