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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

抑うつ症候群

 責任感が強く、仕事を引き受け過ぎて過労死に至ったりする、こころの風邪とも呼ばれている、十分な休息を取ったらサインカーブのような経過を辿って、1年か2年で完治したりする。

 これが「うつ病」と呼ばれる精神病だが、これとは明らかに違う、神経症性うつの人がいっぱいいるという印象を受ける。これは、最近増えている非定型うつ病の自己愛型と同じなのかもしれないが、よくはわからない。不安障害と併発することが多く、休日は元気になる、過食・過眠、夕方以降がうつ(伝統的にうつ病は朝がうつだといわれてきた)などが特徴だ。もちろん、うつ病と違って、初期からの抗うつ剤の投与ではなかなか良くならないし、十分な休息でも良くならないように見受けられる。

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 もちろんうつ病と違って、神経症では障害年金ももらえない。そのためか、よくバイトなんかをこなしている。というか、バイトなどをある程度こなしていたほうが調子が良かったりする。ゆっくりと休んでいるほうが、具合が悪そうだったりする。作業能力も高い。周りの空気とは関係なく、突然「そんなことは心に秘めておくべきだろう」というような事実をべらべらしゃべり出して、周りをびっくりさせたりもする。古典的うつ病と違って、自己主張が強い感じだ。結構、摂食障害、解離性障害、強迫障害や自傷行為なども同時にもっていたりもする。
 本人にはたぶん波もあり、調子の良いときもあるのだろうが、「死にたい」が口癖のように感じられる人もいる。リタリン依存(うつ病では処方できなくなってから、地下に潜ったようだ)の予備軍の人もいるかもしれない。ぼくに昔リタリンをくれたことがある人は、結婚して子どもを作っている。死にたい病同士の結婚だが、病状は今もあまり変わらないようだ。その人は醜形恐怖症だったが、摂食障害も醜形恐怖症の一種だそうだ。太っている自分を醜いと過剰に思い込む。しかし「醜形恐怖症もうつ病の一形態、現われ方が違うだけだ」と言う精神科医もいる。どちらが根っこだか素人にはわからない。

 自殺サイトなどに集まっている人たちも、神経症性うつの人たちが多いのかもしれない。ホントのうつ病の人は、ネットをする気力もなさそうだ。「死にたい病」の人は実行しないかというとそんなこともなく、解離性障害でもあり、以前に知り合いだった人は自殺している。彼は借金を繰り返していたから、そちらのほうで追いつめられたのかもしれない。
 彼の解離は突然気を失ってからだが、硬直し、ドイツ語(こちらはドイツ語を知らないので、正しいドイツ語かどうかはわからないが)でべらべらしゃべり出したり、真に迫った医師の外科手術を実況中継したりする。もちろん、解離中のことを本人はまったく覚えていない。かなり突飛な発作なので、憑依現象だったのかもしれない。お狐様にお願いして油揚げをお供えすれば治ったのかもしれない、冗談抜きに。江戸時代はそれで治療していて、治ったりしたのだから。「解離したらテープレコーダーを回して、録音してくれ。聞いてみたい」と、本人が言っていたことが懐かしい。トラウマという言葉を口にすることもあったのだが、詳しく聞く機会を失ってしまった。

 例外もいっぱいあると思うけれど、ぼくの知り合いでは、うつ病の人はがっしりと太めだが、神経症性うつの人は細めのイメージもある。主治医に聞くと、うつ病が慢性化して神経症性うつになったりする場合もあり、複雑な過程のようだ。
 慢性化して低めに安定している最近のうつの人には、「励ます」ことも必要だと多くの精神科医が言っている。「『背中を押してほしかった』と、後で患者さんに言われたことがある」と、香山リカさんも言っている。ひきこもりの人を外に出す、レンタルお姉さん(ひきこもりやニートの若者を訪問し、家族の問題に外の風を吹き込む活動をNPOで行っている)が、「関係が進んだある時期、外からぐいと引っ張ってあげて、同時に家族は外へ押し出すようにしたら、うまくひきこもりから脱出できた」と言っていることと似ているなとも思う。
 ただ、神経症性うつは当然神経症だから葛藤を抱えている、ということは、大切な「悩む力」があるということだ。葛藤を抱えたまま、病気を出しながらも普通に日常生活を送ることは、結構高度なこころの働きだ。何に悩むかというと、多くの場合、共通してとらわれるのはトラウマ(PTSD)だろう。葛藤で頓服薬や何かの依存に走ったりして、それがまた自己評価を下げたりする。葛藤に自分が壊れそうになって、葛藤のない宗教やイデオロギーにハマったりする。
 主治医によると、近年、臨床心理士のカウンセリングの分野からPTSDという概念が精神科に入ってきて、今、疾患分類の混乱が起こっているそうだ。
 DSM-Ⅳ(アメリカの精神疾患分類)からは神経症というものが消えてしまったが、単純性PTSDは入った。しかし、カウンセリングの分野から複雑性PTSDも入ってきて、それまであった境界性パーソナリティ障害などとの違いは、はっきりとしていない。例えば、DSM-Ⅳでは解離性障害と呼ばれても、原因からいえば複雑性PTSDに分類されるのだろう。どちらにせよ、すっきりと治せる精神科の医者は少ない。
 ぼくの主治医は「あらゆる精神疾患にPTSDは深く関与している」と言っている。近い将来、PTSDをベースにした、精神疾患の再分類が行われるかもしれない。DSM-Ⅳでは見てくれだけで、原因にはまったく触れなかったが、DSM-Ⅴでは原因別分類になるとも聞いたことがある。

 『絶望男』(サンクチュアリパプリッシング)という本の中で、著者の白井勝美は、PTSDが原因であるうつやさまざまな不幸を「父さん、死んでくれてありがとう」と言って決別しつつある。こうやってトラウマをどんどん表現して吐き出していき、一歩ずつ社会とのつながりをつけていくことが、病者が前進していくことにつながる「希望」なのだろう。


コメント


 ジャンヌダルクって映画みましたか? 彼女も病者って思いました。


投稿者: Kitty Guy | 2008年10月02日 07:12

 映画はみていませんが、そういう可能性はあります。


投稿者: 佐野 | 2008年10月05日 17:10

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
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