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佐野卓志の「こころの病を生きるぼく」

田舎暮らし(part3)

虫や動物との戦い
 田舎の家の中にはマムシやムカデが入ってきた。マムシは台所の土間で鎌首を持ち上げていたり、風呂釜でとぐろを巻いていた。捕獲してビニール袋に入れておいたら、食い破って逃げ出したこともあった。ベッドの枕の下にムカデがいたこともある。
 また、雨が降ったらよく雨漏りし、洗面器を置いたりもした。休日には屋根に上がり、あちこちの割れた瓦にコーキング剤を塗りまくったが、雨漏りは止まらなかった。
 畑では10mくらい離れてイノシシの兄弟(姉妹かも?)と目が合ったこともある。まだ1mにも満たない子どもで、襲われる気はしなかったが、見ているとそのうち「まわれ右」をして、林に去っていった。畑はイノシシに広い範囲を掘り返され、よく荒らされた。無農薬野菜のグループに、撃ち殺したイノシシの鍋をごちそうになったことがある。ぼくが見た兄弟イノシシの親かもしれないが、脂っこかったけれどおいしかった。

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 害鳥駆除の日というのもあり、実施されるときには、付近一帯に放送で知らされる。山に鉄砲を持った人が入るので、その日、山は立ち入り禁止になった。林業組合というのもあったが、木をどのように切り出すかを決めるところで、畦作りや害鳥駆除とともに、「開発をいかに進めるか」というもので、「自然保護」的な考えはなかった。
 山の頂上の公園にある立派な松が、松食い虫にやられているので、行政はヘリコプターで農薬散布を行った。「空から農薬をまくとは何事か!」と、ヘリコプターが飛び立つときにヘリのそりにしがみつき、ただ一人の市民派の町会議員が、止めさせようと実力行使をした。近所の人はみんな彼の悪口を言っていたが、ぼくたちはこの議員を支持していたので黙っていた。市民派議員は、無農薬派には圧倒的な支持があった。
 町議会は、もう一人共産党の町議がいるだけで、あとはみんな自民党だった。女性議員もいなかった。ここに引っ越ししてきたときにも、同じ小区だからと、自民党の町会議員が靴下を持って挨拶にきた。地区では男たちの飲み会が時々あったが、その場でも彼は選挙挨拶していた。飲み会は各家持ち回りで、女性たちが料理と酒の支度をするのが習慣化していた。ぼくも、男たちだけが飲むのに気が引けながら参加していたのだが、後に女性たちから「負担が大きい」と文句が出て、最後の頃にはとりやめになった。

草刈りに椎茸採り
 夏の畑は草との闘いだった。草刈り器を回して刈りまくった。草刈り器は、最初は近所から借りていたが、しょっちゅう使うので自分で購入した。これは、地区総出で集まって年に2回くらいやる「道作り(掃除と草取りのこと)」にも役立った。
 草刈りをしていて蜂に刺され、下半身が真っ赤になったこともあった。気づかずにキウイ畑の蜂の巣に近づきすぎたためだった。草刈り器で草に潜むマムシを真っ二つにしたこともあった。ヘビを殺すとタタリがあると聞いていたので、気分はよくなかった。イタチは家の下を走っていたし、台所にも出没した。ネズミは天井を走っていたので、粘着式のネズミ捕り用品で捕まえて、ゴミと一緒に捨てた。夏はトンボも蝶もセミも飛んでいて、夜も明かりを求めて家に飛んできた。夜はカエルの大合唱だった。
 山道では、原木を立てかけて椎茸を作っていた。おじいさんは竹を切って竿にし、ロープさばきも鮮やかに、原木を縛って竹竿を担いで運んだ。原木はぼくたちも一緒に運んだ。湧き水のそばの木陰と竹林の中の2か所に、互い違いに組んで立てかけた。後で穴を開けて菌を植える。一度菌を植えると、数年間次第に数を減らしながらも、冬以外は椎茸が採れた。最後は朽ちて放置されて傘が開き、直径30cmくらいに育ったこともあった。その足元でギンリョウソウ(注)を見つけたときには、その白く透き通った神秘的な姿にしばらく魅入ってしまった。
 竹林では毎年春に、破竹がにょきにょきといくらでも生えてきた。1日で1mくらい伸びる。大した生命力だ。あまりに伸びすぎたものは固いので、まだ土から芽を出したばかりのものをねらって捕り放題だった。毎日両手一杯の袋を持って帰って、茹でて食べた。タケノコより柔らかくておいしかった。破竹は畑のほうに勢力を伸ばそうと、いくらでも侵入してくるので、畑を守るためどんどん採った。1か月くらい破竹の攻勢は続いた。

 しかし草刈りは、小1時間もやっているとへとへとになる、けっこうな肉体労働だ。小石もはね飛ばされてきて、痛い思いもする。草刈り機の丸い刃の周りには、小石はね防止のプラスチックが付いていたが、カバーが草を噛み込んで止まることもあるので、外して使った。疲れきって草刈り器を放り出し、青空のもと地面に寝転んでタバコを吸うのは最高だった。
 夏場の畑は、1週間も放っておくと背丈ほどに草ぼうぼうで作物が見えなくなる。草一本生えていない土に作物だけが育っている畑を見ると、「この畑の持ち主は働き者だ」とつくづく感心した。畑はいくらでもタダで貸してくれたが、やがてぼくたちも5年経ち10年経つと畑を縮小し、猫の額くらいの畑しか作らなくなった。ムゲンの休みの日にする農作業はきつい。特に機械の入らない畑だったので、鍬一本で耕すのはしんどかった。野菜は100円も出せば、近くの市場でいくらでも買えた。でも自分で作った野菜は惜しくて、売ろうと思ったことはなかった。
 息子の小学校では、授業に無農薬の米作りをとり入れていて、秋の刈入れには家族も参加した。お弁当を持って、ちょっとしたピクニックだった。この取り組みが、後に文部科学大臣賞をもらったとニュースに出て評判だった。息子は、椎茸の菌を植えた原木も小学校から持って帰って、便所の前に立てかけておいて、生えてくる先からちぎって食べた。焼くととてもおいしかった。

温泉
 家から車で10分もかからない小高い丘を、町が数年かけてボーリングし、温泉が湧いた。途中、掘っても掘っても出ないから「中止しようか」という話もあったようだ。そして1年くらいして建物が建ち、「ふるさと交流館さくらの湯」としてオープンした。
 もともと老人ばかりが多い田舎のこと、朝6時のオープンから22時まで、おじいちゃんおばあちゃんたちが、みんな浸かりにきて、大盛況だった。1時間に1本、1日3、4本しか通っていないバスも、こぞって温泉に乗り入れた。おじいちゃんおばあちゃんは、家族の車でそろって夜入りにくることも多かった。農家や昼間の仕事を終えた人たちも、夜入りにきた。夜は特に混み合っていた。
 交流館には温泉プールが併設され、水の流れる滑り台もあり、子どもたちが次々に滑っていた。大人も歩行浴をしていた。露天風呂もあり、パイプチェアも置いてあって、ぼくも冬でなければ、よく寝転んでいた。丘なのでいつも風がわたっていた。冬は雪を見ながら入った。
 小学校の高学年になるまでは息子も一緒に入ってくれて、2人で温泉と水風呂に交互に何回も浸かった。家族湯もよく行った。家族湯(2つあった家族湯の1つは障害者用だった)は、予約しておけば待たずに入れたから、障害者用の家族湯に、義娘を介護しながら家族4人で入った。障害者用の家族湯といっても、お風呂と脱衣場の段差がなく、畳でなく床で、カーテンで湯が脱衣場に行かないようにしたものだ。家族湯は、最初は町の議員さんが「ラブホテルみたいに使われる」と反対したけれど、要望が多いので、後から増築された。
 この町の温泉施設は大成功だったようで、マスコミでも愛媛県で一番湯質がいいと報道された。風呂上がりの待合所は、井戸端会議の場だった。ぼくは小さい頃風呂上がりに飲みたくて仕方なかったコーヒー牛乳を、必ず飲んだ。温泉好きのぼくたちは、いつも回数券を買って通った。家の隙間だらけのお風呂は次第に湧かさないようになった。

田舎暮らしの終わり
 町内は遠くにしか店がなく、コンビニもないので、結構不便だった。愛情を試されたのか、単に時間割中に思い出しただけなのかわからないが、夜中に車を飛ばして、遠くのコンビニまでコンパスを買いに行かされたこともある。
 家の傷みも進み、すきま風など台所では特にひどく、冬はストーブを置いても、土間など底冷えがして全然暖まらず、波津子が「田舎はもう嫌だ」と言い始めた。畑作りが嫌になってきていたぼくも「そろそろかな」と思って、息子の中学卒業と同時に引っ越しをして、12年間の田舎暮らしにピリオドを打った。
 街の暮らしに戻って、「雨露や虫が入ってこないし、冬もすきま風も入らず暖かく、水道管が破裂する心配もないのは、何と快適な暮らしだろう」と驚いて、「やっぱり田舎は疲れを癒しに時々訪れるのがいいな」と思った。


コメント


ギンリョウソウ、こんなんです。
http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/HTMLs/ginryousou.html


投稿者: 佐野 | 2008年06月19日 17:52

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プロフィール
佐野 卓志
(さの たかし)
1954年生まれ。20歳(北里大学2回生)のとき、統合失調症を発症、中退。入院中、福岡工業大学入学・卒業。89年、小規模作業所ムゲンを設立。2004年、PSWとなる。現在、NPO法人ぴあ、ルーテル作業センタームゲン理事長。著書に『こころの病を生きる―統合失調症患者と精神科医師の往復書簡』(共著、中央法規)『統合失調症とわたしとクスリ』(共著、ぶどう社)。
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