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永島徹の「風」の贈り物

いい日、いい人、いい出会い

 拙著『必察!認知症ケア』の中で、「介護」という文字について次のように紹介しています。
 「介」という字は人と人とが支え合っている様子を表した漢字で、互いに助け合う関係性を意味しており、その関係性を護(まも)っていくことが「介護」だと言えるでしょう。人と人とが互いに相手を思い、支え合う関係性を保ちながら生活ることを支援していく「生活ること支援」がこれからのケアではないでしょうか。

 最近、このことについて改めて教えてくださった老夫婦がいました。

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 夫が地元の商社を退職して5年を迎えたころ、妻がアルツハイマー病と診断されました。以来夫は、これまでしたことのなかった炊事洗濯など、見よう見まねでする傍ら、妻への献身的な介護をしてきました。
 その甲斐あって、認知症状が進んでいても、もともと穏やかな性格の妻と、たどたどしい会話ですが時折楽しむことができている、と夫は話していました。その夫はいつも、介護に対して愚痴ひとつもこぼさず、温厚でていねいな言葉をかけながら、妻の介護をしていました。
 しかし最近になり、介護をする時間はますます多くなり、日常生活全般にわたって言葉かけはもちろんのこと、見守りや介助が必要な状況。妻には視野狭窄もみられ、歩行が不安定。物音に過敏に反応し、時には声を上げてしまう。この状況の中でも、献身的に介護を続けてきた夫。
 専門医師には、「施設での対応が望ましいのでは…」と助言されたり、担当ケアマネジャーからは「よく介護していると思います。けれども、時にはご主人は身体を休めないと…」とサービス調整をするものの、夫はこれでよいのかと不安を感じている状況でした。

 そんなある日、妻がデイサービスの利用を終え、サービス提供スタッフに送られて帰宅すると、介護者である夫の顔色が悪く、冷や汗を垂らしていました。そればかりか、妻に寄り添いながら、庭先で嘔吐してしまったのです。
 意識はしっかりしているものの、心配になったデイのスタッフは、妻を部屋に、そして介護者の夫には居間のソファに横になってもらい、ケアマネジャーに連絡しました。そして、夫の兄妹にも連絡を入れました。近所に住んでいた兄妹はすぐに駆けつけ、すぐに病院へ連れて行きました。
 診断の結果は「胃腸炎」ということで、吐き気止めなどを含む点滴を行いました。帰りには薬もらい、自宅に戻ってきました。「胃腸炎」ということもあり、妻にうつしてはまずいからという夫の思いから、とりあえず、寝室ではなく居間の和室に布団を敷き、休んでいました。
 すると夫から、周りの関係者に「本当に面倒をおかけしました。すみませんでした。少し疲れたかもしれませんね。でも、皆さんがいてくれて助かりましたぁ。妻はどうしていますか?」と、妻のことを気にしています。
 そんな雰囲気を察してか、それまで自室で静かに横になっていた妻が、居間に現われ「あなた、どうされたの? 具合が悪いの? 無理しちゃ○□△よ。」と、夫を気遣う言葉を必死に話しています。
 妻は長谷川式認知症スケールで5点という状態。それでも夫への思いは変わりません。その様子を見ていた私は、こんな時になんていう質問をするのかと思われてしまうでしょうが、次のことを尋ねてみました。
永島 どうして佐々木さん(仮名)は、いつも穏やかに優しくしていられるのですか?
佐々木(夫) いえいえ、若い頃から私は無茶ばっかりしてきました。時には大きな交通事故もしてしまい、三途の川を渡り損ねたこともありました。しかし妻は、そんな私を、いつでもどんなときでも、温かく、そして優しくしてくれました。妻が優しくしてくれたから、私も精いっぱい優しくしていきたいと思うだけです。これはねぇ、夫婦だからではなく、ゆう子(仮名)という人だったからかなぁ…。

 介護は決してきれいごとですまされることでもなく、心労も重なってくるでしょう。時にはイライラして当たり散らしたくなることもあるのではないでしょうか。それでもなぜ、このような関係性が佐々木夫妻(仮名)にはあるのでしょうか?
 夫婦の歴史は、人にはわからないこともたくさんあると思います。しかし、夫婦愛という見方ではなく、人と人とが互いに支え合い、互いを護っていく姿がそこにあったと思いました。私たちはこのような出会いからも、ただサービスを提供しているというだけではなく、逆に多くのことに気づかされ、学ばせてもらっていることに感謝しなくてはならないと思うのです。
 11月11日が「いい日、いい日」ということで「介護の日」になったということですが、この日は「いい日、いい人、いい出会い」という意味で、人との大切なつながりを振り返る日でもあると思います。
 そして皆さんは、これからの一生「泣いて過ごすのも一生、笑って過ごすのも一生」どちらの一生を、どんな人たちと過ごしていきたいですか?。私はもちろん…。


コメント


 こんにちは、いつも大切に読ませていただいております。そして、毎日の介護支援での躓きや葛藤で困った時に助けていただいております。本当に有難うございます。
 今回の内容、とても心温まる内容でした。私は、今まで…多くの人に当たり前のように迷惑を掛けてきました。そして、本当に大切な親友に多大な迷惑を掛けてきてしまったんだと知ったとき、ご飯がのどを通らなくなりました。そんな自分が嫌で仕方がなかったんです。そして、それから人に迷惑を掛けないように生きようと心に決めました。
 このご夫婦のように、自分の事よりも相手を思いやることの出来る関係って、とても素敵で素晴らしいです。認知症という壁さえも乗り越えてしまうくらい…夫を想える妻、自分の状態よりも妻を大切に出来る夫…私もこんな風に相手を想える様になってみたいです。
 本日は御多忙中の所お時間をいただき、本当に有難うございました。当日、永島さんにお逢いできるのを本当に楽しみにお待ち申し上げます。


投稿者: 寺内 美枝子 | 2008年11月19日 16:07

 寺内美枝子さんコメントありがとうございます。
 私たちは改めて意識して日々の生活の中を振り返ると、一喜一憂しながら多くの方々から、かけがえのないことを学ばせてもらっていることに気づくことでしょう。でも、時には心身ともに疲れ、まわりを見つめる余裕さえなくなるときもあると思います。やっぱり、生活るということは、紆余曲折ありますからね。
 そんなとき、視点を変えることができる仲間達や集える場所が身近に必要だと考えております。機会があれば、そのような場を多くつくっていけきましょう。どうぞよろしくお願いします。


投稿者: 必察ソーシャルワーカー 永島徹 | 2008年11月20日 21:47

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
永島徹
(ながしま とおる)
NPO法人「風の詩」副理事長。社会福祉士、ケアマネジャー。大学卒業後、青森県にて精神科ソーシャルワーカーとして精神障害回復者の社会復帰活動に従事した後、郷里である栃木県へ戻り、特別養護老人ホーム併設の在宅介護支援センターに勤務し、地域の中で生じているさまざまな介護上の諸問題についての相談等に応じる傍ら、ケアマネジャーとして介護サービス利用者がより良い生活を過ごしていけるようにと活動。その後、縦割りではなく複合的な地域福祉の拠点を創ろうという計画で、NPO法人「風の詩」を設立、現在に至る。

【永島徹さんの最新刊】
『必察! 認知症ケア 思いを察することからはじまる生活ること支援』
著者:永島徹
定価:¥1,890(税込)
発行:中央法規出版
ご注文はe-booksから
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