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永島徹の「風」の贈り物

私のこの思いを聞いてください!

 先日の夜、一本の電話がありました。
 電話の相手は、私たち福祉系の同業者。とてもていねいな口調と淡々とした声のトーンで「私は山田花子(仮名)といいます。永島さんには、ケアマネジャーの研修会や認知症に関する講座などで幾度も話をうかがったことがあります」と自己紹介され、次に出てきた言葉は「実は最近、認知機能の低下がみられてきたのです。ですから、今日電話したことさえも、次の瞬間には忘れてしまうかもしれません。けれども、ぜひ私の思いを伝えたくて電話をしました」というものでした。

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 山田さんの話によると、一昨年頃より、普段できていたことができなくなり、息子たちからもそのことを指摘されるようになったとのこと。仕事をしていても、頭の中の整理がつかずに混乱し、心配してくれる仲間や家族のすすめもあり、病院を受診。
 すると「更年期による軽い鬱病でしょう」と診断されたそうです。もらった薬を飲むと、一時は頭痛やめまい、そして頭のもやもやは軽減するものの、再び不快感がおそってきたということ。そうこうしているうちに、ますます普段できていたこと、部屋の整理整頓や容姿を整えることも難しくなっていったそうです。
 寝癖や目やには付いたまま。シャツが多少出ていてもそのまま仕事にでかけてしまったこともあったようです。自分で分かっていても、すぐにそのことさえ忘れてしまう。息子に「最近だらしないよ、しっかりしろよ。それに…」と矢継ぎ早に話をされると、頭が混乱してしまう。
 そこで、「もしかして、認知症かも」と思い専門医を受診したところ、脳に怪しい影があるということになり、どうやらそれが今回の原因らしいことがわかったということでした。しかし、そのことが分かったとして、手術をしてもどのくらい回復するか、もしくはもう先がないかもしれないという不安が増してきたということです。

 それでも山田さんは、自分の不安な思いだけを誰かに聞いてほしくて電話をかけたのではありませんでした。山田さんはこう続けました。
 「私は認知症の方々に、介護や時にはアセスメントと称していろいろとうかがった時の自分のかかわりがいかに不親切だったのかに気づかされました」
 「手足は動きますか。今朝は何をたべましたか…など、矢継ぎ早に聞いていた自分。相手の人は、どんな思いでいただろう。不安、混乱、どうしてこんなことになってしまったのだろうという絶望。私は、人として相手の思いを大切にすることができていませんでした。それがこうなってはじめてわかりました」
 「今日この電話をしたことさえも忘れてしまうかもしれませんが、どうしてもこの思いを聞いてほしい、そしてみんなに分かってほしいのです」
 と、必死に電話先で私に伝えてくださったのです。
 私は、「こうして電話で思いを伝えてくださって、本当にありがとうごさいます。○月△日、何時何分。この電話でうかがったこと、私は忘れません」そう心から自分の思いを伝えました。
 「わかってほしい自分の思いを、紙にようやく書いてみました。ぜひ読んでください」と最後に山田さんは話し、私はFAX番号を伝えました。その日のうちに3枚の紙が届きましたが、白紙。裏表を反対に送ってしまったのかもしれません。この白い紙に、山田さんのどんな思いが記されていたのだろう…。確かめることができませんが、私は、山田さんの人として、そして専門職としても生活(いきる)思いを忘れてはいけない。伝えていかなければいけない…そう強く思いました。


コメント


 永島様 お世話になります。
 切実な相談内容ですね。自分が援助職として生きてきた過程を、今度は「もしかしたら自分が?」という思いを抱きつつ、反省までしている山田花子さん。そして、その思いを受け止めている永島さん。
 私はこのコラムを読んでみて、悔いのない人生を送ろうと思いました。山田さんの思いを受け止めることはできても、適切な助言は私にはできないと思う。援助って深いですね。心が揺れました。


投稿者: 西村一志 | 2008年03月24日 21:06

 徹さん、西村さん、お世話になってます。
 お2人よりはるかに年月を生きてきたあねさんとしては、山田花子さんはひとごとではありません。
 そして、対人援助職をされてきた山田花子さんだからこそできるカミングアウト、対人援助職としての気づきをわたしたちソーシャルワークに携わるものに徹さんを通して、伝えてくださっているんですね。
 ありがとうございます。
 かのキューブラー・ロスも、いざ、わが身に死の瞬間が近づいてきたとき、それまでの自分とは違う揺らぎを感じつつ、それを文章に残しています。
 当事者には、なってみなけりゃわからないといいますが、確かに、年を重ねてここまで来たから、わかる一つひとつのわが身や周囲の変化。
 心の中には、あの若き日の思いや感性がそのまま残っているというのに、姿形や体力は、年月をごまかせません。
 年を取っていくこと、病気や障がいを抱えること、それを受けとめながら、わたしらしく今を生きていく。
 山田花子さんからのメッセージ、ありがとう。


投稿者: おねこねこ | 2008年03月25日 14:34

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プロフィール
永島徹
(ながしま とおる)
NPO法人「風の詩」副理事長。社会福祉士、ケアマネジャー。大学卒業後、青森県にて精神科ソーシャルワーカーとして精神障害回復者の社会復帰活動に従事した後、郷里である栃木県へ戻り、特別養護老人ホーム併設の在宅介護支援センターに勤務し、地域の中で生じているさまざまな介護上の諸問題についての相談等に応じる傍ら、ケアマネジャーとして介護サービス利用者がより良い生活を過ごしていけるようにと活動。その後、縦割りではなく複合的な地域福祉の拠点を創ろうという計画で、NPO法人「風の詩」を設立、現在に至る。

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著者:永島徹
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発行:中央法規出版
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