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永島徹の「風」の贈り物

認知症の人の生活(いきる)こと支援に向けて その3 相手の生活(いきる)思いを察しよう

 Wさんの奥さんからの電話で始まった出会いから一年。
 私はソーシャルワーカー(生活こと支援の専門職)として月に一度、Wさんのお宅を訪問し、面接することを続けています。
 前回のブログでも伝えましたが、人は制度(介護保険)を活用するために生きているわけではなく、必要ならば制度を自身の生活に活かしていけばいいのです。そして、認知症であるかどうかより、認知症とともにどのように生活ていきたいのか、生活ていけるのかを考えていくことが大切です。私はこの一年、そのような視点でWさん夫妻を支援してきました。

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 最初の電話で、「介護保険のお世話になったほうが…」と話した奥さん。後日改めて話しを伺うと、やはり知り合いの人から「申請したほうがいいよ」と言われ、とにかく何かしなければと焦っていたようでした。
 ただ、Wさんの様子がこれまでと大きく変わってきていることは確かで、そのことを奥さんはとても心配していました。
 そこで、介護保険の申請をお手伝いしました。でもそれは、最初に「介護保険のお世話になったほうが」と奥さんが話したからではありません。何だかわからない不安を持ち続けるより、Wさんの状態を客観的に確かめることを望む奥さんの思いを察したからです。
 結果は要支援2。必要であれば何らかのサービスは利用できる状態であることがわかりました。
 しかし現在まで、サービスを利用することなく、二人で支え合うことで生活を続けています。もちろん、この一年でWさんの状態がまったく変わらなかったわけではありません。むしろ、もの忘れや計算を間違える、言葉が出にくいなどの状態はすすんできました。
 自治会の会計の任期もまだ残っており、側で見守る奥さんも、どうしたものかと思い悩むことがあったようです。
 私は、そんなWさんの状態の変化に伴い生じてくる日常のさまざまな不安や心配事を、毎月の訪問でうかがい、具体的な対応方法のアドバイスなどをしてきました。それは、自分たちの生活に何が必要なのか分からないまま、やみくもにサービスを利用することの支援ではなく、どんなふうに生活したいのか、生活していけるのか、二人の思いを整理することのサポート(生活こと支援)です。

 病気についても、奥さんはWさんが認知症ではないかと心配し、最初に「どこに行って診てもらったらよいか教えてほしい」と話しました。でもその言葉にすぐに応えて専門医などの情報をお伝えすることが、生活こと支援とはいえません。
 二人の生活思いを察することから、生活こと支援は始まります。私は「ご主人が認知症かもしれないと心配されているのですね」と、ていねいに共感する気持ちを奥さんに伝えてから、二人のこれまでの生活のことなどをうかがっていきました。
 そして、思うようにできなくなってしまったWさん自身の今の思いも、Wさんの発する言葉を借りながら、認していきました。
 やがて二人の口から、今がどのような状態なのか分からないことの不安が語られ始めたところで、私は初めて、認知症に関する話を始め、それを確かめるために必要な情報を提供しました。そして、これからも、できるかぎり自分たちらしく生活していきたいという二人の手伝いをさせてほしいと伝えました。
 後日専門医を受診したWさんに出された診断は、アルツハイマー型認知症。長谷川式スケールは18点ということでした。結果は、もしやと思ったとおりの認知症。しかし二人にとっては、その事実を確かめるまでの過程が重要であったと考えます。たとえ認知症になっても、自分たちらしく生活したい。その支援には、「認知症だから」という決めつけでなく、相手の思いを察していくことが不可欠です。

※注「生活」を「いきる」と表現しています。


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プロフィール
永島徹
(ながしま とおる)
NPO法人「風の詩」副理事長。社会福祉士、ケアマネジャー。大学卒業後、青森県にて精神科ソーシャルワーカーとして精神障害回復者の社会復帰活動に従事した後、郷里である栃木県へ戻り、特別養護老人ホーム併設の在宅介護支援センターに勤務し、地域の中で生じているさまざまな介護上の諸問題についての相談等に応じる傍ら、ケアマネジャーとして介護サービス利用者がより良い生活を過ごしていけるようにと活動。その後、縦割りではなく複合的な地域福祉の拠点を創ろうという計画で、NPO法人「風の詩」を設立、現在に至る。

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著者:永島徹
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