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永島徹の「風」の贈り物

認知症の人の生活(いきる)こと支援に向けて その2 専門職の思い込みをなくそう

 「うちのお父さん(夫)の様子がこれまでと違うんです。最近よく耳にする認知症!?なんじゃないかと心配で」
 Wさんの奥さんから初めて電話をいただいて、もうじき一年になります。Wさん(75歳)は、地元の会社の事務長として勤め上げ、退職後は自治会活動などにも積極的に協力し、会計などの役割を担って力を発揮されていたとのこと。
 そのWさんがたびたびお金の計算を間違えるようになり、奥さんがそのことを指摘すると「うるさい」と大きな声を上げるように…。その後、そっと様子を見ていると、帳簿を眺めてぼーっとしているだけのWさん。そんなご主人の変化に気づき、不安になった奥さんは、思い切って社会福祉士事務所「風のささやき」に電話をかけてきたのです。

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 「お宅で介護の相談にものってくれるということを知り合いから聞きました。その知り合いから、介護保険というのを申請したほうがいいのではとも言われて。認知症についても、やっぱり病院に行ってみてもらったほうがいいでしょうか。どこに行って診てもらったらいいのかも教えてほしいのですが」
 声のトーンや一気に話し出す奥さんの様子から、どうしたらよいものかという大きな不安と、とにかく何かをしなければという焦りが伝わってきました。
 社会福祉士事務所では、しばしばこのような相談を受けます。その時私が一番最初にすることは、電話をかけてきたり、相談にきた方の思いを察することです。
 「もしかしたら、認知症なのかもしれない」
 「これからどうしていったらよいのだろう」
 そんな不安な思いがいっぱいの状況で、何らかの行動を起こすことはとてもエネルギーのいることです。だからこそ、相手の思いを尊重するように、心を込めて声をかけます。
 「認知症かも」「介護保険のお世話になったほうが」という言葉が出てきたときはなおさら、私自身が「認知症」「介護保険」という言葉にとらわれないように注意して話を聞きます。言葉にとらわれてしまうと、相手の真の思いが見えなくなるからです。

 私自身はソーシャルワーカーですが、ケアマネジャーとしての役割を担うこともあります。ケアマネジャーは介護保険制度の中で設けられた資格です。だからこそ、相手と向き合う自分自身の意識は、「介護保険」という言葉にとらわれないように注意することがとても大切です。
 もし私が「介護保険」というフィルターだけを通して相手を見てしまっていたら、相手を「介護保険」という制度に合わせようとすることに力を注いでしまうかもしれません。相手の言葉を頼りに「認知症だと」と思い込んでかかわってしまったら、生活(いきること)支援の方向性がぶれてしまうでしょう。
 相手の人は、「介護保険」を活用するために生きているわけではなく、自分らしく生活する(いきていく)ために、必要ならば制度を自身の生活に活かしていけばいいのです。そして、認知症であるかどうかより、認知症であるとするならば、その病気とともにどのように生活して(いきて)いきたいのか、生活して(いきて)いけるのかを考えていくことが大切です。
 私たち専門職が、制度や認知症という言葉にとらわれ、自分の思い込みで相手の生活(いきる)を決めつけてしまうようなことがあってはなりません。私はいつも自分にそう言い聞かせながら、出会えた方々とかかわります。自分の思い込みをなくして、相手の生活(いきる)思いと向き合っていくことから、認知症の人の生活(いきる)こと支援が始まるのです。
 次回は、Wさんと奥さんとのかかわった一年を振り返りながら、生活(いきること)支援に何が大切なのかをさらにお伝えしていきたいと思います。


※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
永島徹
(ながしま とおる)
NPO法人「風の詩」副理事長。社会福祉士、ケアマネジャー。大学卒業後、青森県にて精神科ソーシャルワーカーとして精神障害回復者の社会復帰活動に従事した後、郷里である栃木県へ戻り、特別養護老人ホーム併設の在宅介護支援センターに勤務し、地域の中で生じているさまざまな介護上の諸問題についての相談等に応じる傍ら、ケアマネジャーとして介護サービス利用者がより良い生活を過ごしていけるようにと活動。その後、縦割りではなく複合的な地域福祉の拠点を創ろうという計画で、NPO法人「風の詩」を設立、現在に至る。

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著者:永島徹
定価:¥1,890(税込)
発行:中央法規出版
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