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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

極寒の盛岡で考える

 正月休みが終わった途端、忙しい日常に舞い戻ったとお感じの人はさぞや多いことと思います。先週から大学の授業は再開され、差し迫った必要からある虐待ケースに関するスーパーバイズを実施し、そして週末には、盛岡市で開催された虐待防止研修(岩手県知的障害者福祉協会主催)に講師として参加しました。盛岡は最高気温―3℃と極寒でしたが、研修が始まると熱気に溢れていました。

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開運橋から臨む北上川

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 「忙しい内が花だ」なんて言う人もいますが、この言葉に私は疑問を感じます。わが国の学校の教員の労働時間は、OECD諸国の中で断トツの長さです。女性の社会進出を阻む諸悪の根源がこのような長時間労働によるワークライフバランスの偏りにあることは、すでに多くの研究者が指摘するところです。福祉領域に働く支援者のワークライフバランスについてのデータに接したことはないのですが、ここにもきっとディーセントワークの実現を阻む深刻な問題があるのではないでしょうか。

 支援者を対象とする虐待防止研修では、「施設従事者等による虐待の防止」に限定することを避け、「養護者による虐待の防止」の取り組みと必ずセットにして研修内容を組むことにしてきました。その上で、研修依頼の際にご要望があれば、「使用者による虐待」も含めることにしています。

 本来的に言って、職業的支援者は虐待防止の取り組みの要です。制度設計や管理運営の問題から支援現場に不適切な問題が出来する現実を否定はしませんが、個々の支援者は虐待をしようと考えて支援現場に就いた人など一人もいないこともまた事実なのです。

 虐待防止に資する研修で大切な点は、「これは虐待行為だからやってはいけないことだ」というような禁止事項に注意を向けるような内容ではなく、障害のある人の生活と人権擁護の質を高めていくために「私たちにできることは何か」を柱に据えてともに考えることです。

したがって、支援の現場で「してはいけないこと」にとどまらず、支援の質を向上させる取り組みの中に虐待対応支援を含めて深めていく視点が重要なのです。このような意味から、養護者による虐待の防止と施設従事者等による虐待の防止の両面から、研修を必ず構成することにしてきました。

 支援現場における不適切な行為や虐待の発生関連要因は、システムや管理運営の問題から構成される側面が重要です。この点に関わって、研修の機会ごとに全国各地の現場支援者から共通に指摘される課題がありました。それは、マンパワーが確保できないという現実についてです。

 職員確保の問題は、地域による例外がないといっていいほど、全国各地で耳にしました。地方部なのか、都市部なのかの違いもほとんどなかったと感じています。

 まずは、「募集をかけても人が来ない」「あまり長く続かずに辞めてしまう」というような必要な頭数さえ確保できないという基本問題です。次に、法人の事業所構成に関連して「正規職員の兼任業務ならまわせるが、専任で貼りつけると赤字になってしまう」というような職員体制をめぐる難題です。

 そして、このような職員確保の問題が、それぞれの事業所の経営や自助努力の課題に帰結され、還元されてしまう点こそが最も深刻な問題だと考えています。それぞれの事業体・事業所ごとの経営努力はもちろん必要ですが、全国各地の法人や事業所から職員確保の困難を共通に提起される現実には、制度設計と国の施策にも大きな課題があると考えるのが自然で妥当です。

 袖ケ浦の県立施設で虐待死亡事件が発生した千葉県社会福祉事業団は、社会福祉基礎構造改革の実行に入った段階で職員の「早期退職募集」をかけたところ、予想を大きく上回る90名が応募し、有為なベテラン職員の多くが辞めてしまったのです。利用者の保護者でさえ、「施設職員の顔ぶれがこんなにも変わっているとは知らなかった」と驚くようなあり様でした。

 介護保険や障害福祉サービスの制度が変更されるたびに、ネットワークのシステムやソフトの刷新が必要となり、IT業者はそのたびに莫大な利益を得ています。支援の現場は、制度変更のたびに戸惑いと混乱に直面し、経営・運営のあり方に中長期的な見通しを持つことさえ難しくなっているのではないでしょうか。介護保険や障害福祉サービスの制度変更は、IT業者のもうけを確保するためだけに実施されてきたのではないかと疑いたくなるほどです。

つまり、個々の事業体や事業所の経営や管理運営の課題をいう前に、経営と管理運営を見通すことのできる客観条件が制度的に担保されているのかという点がまず問われなければなりません。ソーシャルゲームで大儲けしているIT関係者がいる一方で、人たるに値する暮らしに必要不可欠な介護・福祉サービスの担い手の待遇は一向に改善されないというのは、やはり社会システムに改善すべき重大なテーマがあると言うほかありません。

 虐待防止の取り組みを個々の支援者の問題に還元することなく、障害のあるなしにかかわらず、人権擁護とディーセントライフを実現するための取り組みを共にできるようになること―ここに虐待防止研修の真価が問われると考えます。

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盛岡の店舗

閑話休題。盛岡市内のミスド店舗は、首都圏とカラーデザインが違いました(笑)


コメント


最近よくテレビのニュースなどで体罰という言葉を耳にすることが増えてきた。体罰はスポーツを行っている人に多くみられるが、このブログでは虐待について書かれている。自分の思い通りにいかなくなるとすぐに手を挙げてしまうのである。どこかで聞いたことがあるが自分がもし教える立場または介護などする立場になったらまず「6秒間黙って考えろ」というものでした。人間はカッとなると冷静にはなれないのでまず我慢することが大事だと思った。


投稿者: ヒロユキ | 2014年01月21日 11:11

虐待を防止するために、「してはいけないこと」よりも、「私たちにできること」を探す。マイナスな面よりもプラスな面を増やそうとする考え方は、これからの虐待問題について考える際にとても必要なものだと思った。
IT企業ばかりが儲かり、介護・福祉サービス関係の仕事は全く儲からない。儲からないから皆その世界を避けざるを得ない。介護・福祉サービスは直接的に人の生活に関わる重要な仕事なのに、マンパワーが足りないのは非常に深刻な問題である。国が動くことが一番望ましいが、今の政府には期待できない。そんな中での虐待防止研修は、介護・福祉サービスの現状を変えうる重要な研修だと思った。


投稿者: とも | 2014年01月21日 17:36

この記事を読み、介護保険や福祉サービスのシステムが変わり、IT企業は儲かる一方、支援の現場は戸惑いと混乱に直面しているというのは確かにそうなのかもしれないと思った。IT企業がその儲けを利用して支援の現場で直接サポートするということはできないのだろうかと考えた。また、介護施設での働く人の待遇が良くないせいで職員が必要なのに足りていないという事態が起こる。国がもう少し福祉関係に対してサポートしてほしいと思った。


投稿者: たまご | 2014年01月21日 23:06

ブログの記事を読んで驚きました。
職員確保の問題は都市部、地方部関係なくどこでも起こっていることだったのですね。
同じ仕事でも地方部より給料体系がいい分、少し遠くても都市部に流れているとかもあるなかな?と思っていました。

私自身、身体に障害がある利用者として、この介護の人手不足はかなり生活に影響が出ています。

私が利用している事業所では、一人でも休んだ場合ケアの時間が変更になったり、事業所からキャンセルの連絡がきて、急きょ夫に仕事を中断して帰ってきてもらって対応したこともあります。

生活に必要でお願いしているため困りますが、障害のある人をケアできる資格を持っていても実際に入ったことがない事業所も多く、お願いしても断られることもあり、障害を理解してくれる事業所が見つかっても、今度は人がいなくて今は受けられないと言われて、代わりに入ってくれる事業所がなかなか見つからないのが現状です。
生活状況や体調によって、ケアが増えることはあっても、減ることはないので先々のことを考えると、今のままではいずれ立ち行かない状態になるのではと不安になります。

事業所をパニックにする介護や障害の制度の変更や、介護の質の向上のためにと研修を増やしたり、資格取得を難しくするのにお金や時間を割くより、もう少し介護の現場で働く人の負担の軽減や、利用者の生活の安定のためになる使い方や問題解決に時間とお金を使ってくれることを願いたいです。


投稿者: はちみつ | 2014年01月22日 04:03

僕も、宗澤先生の意見に賛成です。時々ニュースで、介護老人ホームの職員が、介護を受けている高齢者に対し暴行をし、心身共に傷を負わせたというような事件を耳にします。僕はそのようなニュースを見るたび、「そんな人がなんで介護老人ホームにいるんだよ」とか、「介護老人ホームの職員として、やっていいことやってはいけないことの判断くらい心得えとけよ」などという感情を抱いていましたが、先生の記事を読んで、そういう問題ではないんだな、ということがはっきり分かりました。最初から高齢者に暴行をしようと思って職員になる人や、職員としての心得を理解しようとしない人なんてまず居なくて、必要人員数もそろわない雇用状況、目まぐるしく改革される介護施設の制度など、様々な要因が職員たちの心に圧力をかけ、その結果虐待などの事件が発生してしまう。よって、このような事件の根幹を断ち切るには、先ほどの僕の感情のような意見ではなく、もっと様々な観点、様々な角度から客観的に原因を考え、そして改善策を模索していかなくてはいけないのだなと思いました。


投稿者: でかまるくん | 2014年01月22日 11:32

職員不足に関して、まず経営難という事実は良くないことですよね。良くないというのはそこの施設が悪いわけではなく、そういう風な状況を作ってしまっている行政、政府に対してです。単純に予算をそのような事業に回すというのは難しいとわかってはいますが、特に地方の行政にはこのような「本当に人のためになること」に対して予算を割いてほしいと思います。多分こんなことはこれからもずっと言っていくことなんだろうなあ・・・
ちなみにわたしはポンデリングが一番好きです。


投稿者: アニー | 2014年01月28日 18:38

盛岡に行ったのですね!私は岩手出身なので嬉しくなりました(笑)
ブログの内容についてですが、「何をしてはならない」ではなく「私たちに何ができるか」ということを話し合い考えるというのは、本当に納得しました。また、事業所の努力が足りないだとか経営が間違っているという考え方でぞの現場の方々に問題を押し付けていては、社会システムの問題点が見落とされていまうと感じました。障害あるなし、または実際に養護する環境にあるなしに関わらず、豊かなディーセントライフが普及することが当然のこととなるような社会にしていかなければならないですね!


投稿者: はるなつ | 2014年01月29日 10:28

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
タイトル:『障害者虐待 その理解と防止のために』
編著者:宗澤忠雄
定価:¥3,150(税込)
発行:中央法規
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