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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

どこに行き着くのか?

 この1週間は、社会保障・社会福祉をめぐる二つの重要な報道に接しました。一つは、2012年度の児童相談所虐待対応件数が66、807件(速報値)に達したことで、もう一つは、社会保障国民会議が介護保険制度から要支援を分離することを含めた負担増の報告素案をまとめたというものです(7月26日朝日新聞朝刊)。

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 2012年度の児童虐待対応件数は、2011年度の59、919件から一年間で11.5%増加しており、この統計が開始された1990年度の1、101件と比べれば、実に60倍を超える増加のあった事実を告げています。

 とくに、福島県では2010年度の224件から2012年度の311件と4割近く増加しています。その中でも、浜通りを管轄する浜児童相談所では2010年度51件が2012年度の120件と2。4倍もの急増です。

 このような震災の影にある子育ての問題について、同新聞の報道は次の二つを指摘しています。(1)仮設住宅―薄い壁、隣が気になりストレス、(2)県外避難―母と子だけ、なれぬ土地で孤立。

 避難所から仮設住宅や県外での避難生活を余儀なくされた被災者にとって、長い避難生活に伴う心身の疲れはさぞや深刻な事態にあるでしょう。その上、防音性能のまったくない仮設住宅や見知らぬ土地での孤立が重なれば、親にイライラが募ることは必然でしかありません。つまり、落ち着いた子育てを営む生活条件が剥奪されたままなのです。

 このことは、増加し続ける子ども虐待の背景には、震災地域の問題にとどまらず、すべての地域の子育てを営む客観条件の貧しさの進行に歯止めがかかっていない深刻な問題があることを示すものです。虐待防止策を重ねていった末に、わが国の子育てにどのような安心を築こうとしているのでしょうか。

 負担増に傾斜した素案をまとめた社会保障国民会議は、消費増税の方向を踏まえて「持続可能な社会保障制度」の立て直しを提言することを求められた組織です。
 介護保険は、もとから消費税との抱き合わせで作られた制度です。しかし、そのコンセプトはめまぐるしく変化し、当初は「介護の社会化」、途中から「介護予防」、そして今回の素案では「要支援分離と負担増」となっているようですね。消費増税と介護保険の負担増を重ねて言った末に、わが国の介護問題と高齢者の暮らしに果たしていかなる安心を築こうとしているのでしょうか。

 仮に財政に限界があって、「持続可能な社会保障制度」を構築するにはさまざまな負担増を考慮しなければならないとしても、結局どのような暮らしの安心を結実させるのかの具体的なビジョンの提示を欠いた施策の積み上げや制度の練り直しを前にすると、いささかうんざりするような気持ちに私は襲われるのです。

 1950年10月16日、社会保障制度審議会(会長・大内兵衛)は「社会保障制度に関する勧告」を当時の内閣総理大臣吉田茂に提出しました。この勧告は、当時の敗戦直後の「社会経済事情と憲法第25条の本旨に鑑み」、今後の社会保障制度の具体的なあり方を勧告することによって、国民に安心できる暮らしへの見通しを提示するものでした。

 この勧告の序説冒頭は、次のように述べています。

 「時代はそれぞれの問題を持つ。
 敗戦の日本は、平和と民主主義とを看板として立ちあがろうとしているけれども、その前提としての国民の生活はそれに適すべくあまりにも窮乏であり、そのため多数の国民にとっては、この看板さえ見え難く、いわんやそれに向かって歩むことなどはとてもできそうではないのである。問題は、いかにして彼らに最低の生活を与えるかである。いわゆる人権の尊重も、いわゆるデモクラシーも、この前提がなくしては、紙の上の空語でしかない。いかにして国民に健康な生活を保障するか。いかにして最低でいいが生きて行ける道を拓くべきか、これが再興日本のあらゆる問題に先立つ基本問題である。」


 そして、「問題はそれぞれの解決法をもつ」と続き、社会保障制度の構築に向けた具体的なアプローチを提示した上で、社会保障制度の詳細を勧告本文で明らかにしていくのです。この勧告は、時代を画する社会保障制度構築の課題を明確に自覚し、国民の安心できる暮らしに結びつく具体的なビジョンを提示する責任を果たしました。

 もし、成長型の社会経済情勢が終焉を迎え、少子高齢化をも見据えた新しい型の「持続可能な社会保障制度」を提示すると言うなら、この1950年「勧告」に勝るとも劣らぬ考え方とビジョンの具体性を、国民にどのような安心を保障するのかの観点から明らかにすべきだと考えます。

 すべての国民は、虐待急増と介護負担の不安に満ちた果てしない迷路から脱出し、当面する道のりに険しさがあるとしても、行き着いた末に安心できる暮しのあることを望んでいます。社会保障・社会福祉とは、それを具体的に指し示すものではないのでしょうか。


コメント


2012年度の児童虐待対応件数が、2011年度の児童虐待対応件数と比べて11.5%も増加していて、1990年度の児童虐待対応件数と比べれば、60倍以上の増加が見受けられるということですが、これは単に児童虐待の件数が増加しているだけではなく、自治体などの児童虐待に対する取り組みによって、今まで隠れていた児童虐待が徐々に表面化してきた結果であると僕は考えます。ゆえに一見、児童虐待対応件数が増加していくのは悪い傾向のように思われますが、自治体などの児童虐待対応が以前よりも機能しているという良い側面も持っているのではないでしょうか。最終的には、児童虐待の件数そのものが減少することが理想だと思いますが。


投稿者: こしあんぱん | 2013年12月07日 11:45

私が関心を持っているのはやはり震災の影に暮らしている子供の虐待問題。そもそも仮設住宅での生活自体もはや子供にとって息苦しいのに、親の虐待まで受けるなんて本当にかわいそうだと思います。先生の言うとおり、避難生活は親の気持ちを乱してしまって、それによって、子供はもっとも不幸な人となってしまった。ニュースではいつも復興の工事が全力進んでいますっていいますが、現在独特の時点では、地元の政府はどうすればこの厳しい時期を乗り越えるかを考えるべきだと思います。たとえば、今の時期だけの子供保護向け政策や、親の立場から親の状況を支援する政策とか、こういった一時的な企画はかなり必要だと思います。


投稿者: oscar | 2013年12月18日 18:26

私は子どもの虐待件数が、こんなにも増加していることを全く知りませんでした。私も東北出身ですが、震災の影響がこのような形で現れてくるのはとても悲しいことだと思います。この事態を抜け出すには、被災者の方々はもちろん、国民全員の安心を速やかに保障すべきです。超少子高齢社会で、現行の社会保障制度では必ず破綻すると私は考えています。現在、安倍内閣により大規模な経済政策が進められていますが、そこから社会保障制度の改革に繋げていき、みんなが安心できる生活が実現されることを願います。


投稿者: まくら | 2013年12月29日 17:43

朝日新聞は、震災の影にある子育てについて、(1)仮設住宅と(2)県外避難という2つの問題を指摘しましたが、そこに大きくあるのは、今後の生活に対する不安ではないかと感じました。仮設住宅も県外避難も、一時的なものであれば耐えられます。問題なのは、それがいつまで続くかわからないことだと思います。震災地域に限ることではありませんが、行く先不透明な不安は、精神を疲弊させます。また、とあるニュースで、被災地では学校の校庭にも仮設住宅が建ち、子供の遊び場が削られてしまっているという話を聞きました。その結果、運動する機会が減り、そのせいで子供の怪我が増えたということです。子供からすれば、好きに体を動かせないというだけでも、十分ストレスになり得ると思います。ストレスの溜まりやすい環境でありながら、それを発散する手段(体を動かすこと、遊ぶこと)を奪われている環境、そうした一面も、被災地にはあるのだと考えました。
こうした状況を打開するためには、おっしゃる通り、安心を保障できる、具体的なビジョンを示していく必要があるように思います。そのようなことを考えるのは、なかなか難しいことだとは思いますが、子供たちの遊び場や、大人たちのくつろげる空間を用意するなど、小さなことから考えていく必要があるように思います。


投稿者: sido | 2014年01月04日 20:12

「ストレス社会」と言われる世の中で、児童虐待件数が増加していることは何ら不思議なことではない。国は、虐待防止のためにどこにお金を使うべきかを考えると同時に、子育てにしやすい環境整備に努めるべきだ。共働き、かつ核家族が多い社会でどれだけ子育て支援ができているだろうか。親が子を育てる「余裕」を国は生み出す必要がある。震災の影での虐待はそこまで知られていないだろう。国の復興の中に子育て支援はどれほど考慮されているのだろうか。原発問題ばかりに目が行きがちになるが、もっとソフトな部分にも目を向けていかなければならない。国の新自由主義政策の中ですべての親、子ども、家庭を支援していくことなど到底無謀だと思うが、この現状は早急に打破しなければならないと思う。


投稿者: ハバネロ | 2014年01月17日 00:23

私は、今回震災の影にある子育てについて興味をもったので、コメントさせていただきます。東日本大震災の被害や現状を伝える報道には、生きるか死ぬかに関する内容や、原発の被害とその影響といった、表面的な内容しか、私たちに伝えていないような気がしました。「仮説住宅を設置し、人々が暮らせるようになった」、「復旧活動が進んでいます」ということに重点を置きすぎて、そこに暮らす被災者たちの本当の苦労、苦しみ、生活状態に触れられていないような気がしました。「復興が進んでいるのだから良い」ということだけが重要なのではないのかなと考えました。そこに暮らす被災者の生活の質や、子育てのできる環境の配慮などを、支援する側がもっと考慮しなければならない問題なのではないかと思います。そのような問題からも、消費増税や介護保険の負担増を行うならば、被災者を含め、私たち国民にとってどのような“安心”を国は与えてくれるのかを、もっと具体的に示すべきであると思いました。


投稿者: みかん | 2014年01月17日 11:55

私の状況では、私はこのitouchの新しい世代のiPodをしたいときに私はそのような場合に熱心だし、それは良いタイプであると考えて、私のパートナーをた一日と私はソフトウェアを排除する必要があり、私は最も確かに長い時間が悲嘆と確信していますか、 この時点で、ソフトウェアはしばしば、間違いなく私の日常生活の中の重要な商品の一つである。6オンス。 ダース南部地域は意志に設計された非常に明確なケースが付属しています? AppleのiPhone 4と同じように、かなりきれいなohydrates。
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投稿者: iphone5s ケース | 2014年01月20日 19:45

震災と児童虐待対応件数に、関連があるとは全然考えてもみなかったが、確かに、震災によるストレスというものは、私には想像もつかないほどのすさまじいものであると思いますし、たとえ大人である親であっても精神的にまいってしまうのは、仕方のないことのように感じます。やはり、児童虐待の件数を減らしていくうえでは、政府や自治体による積極的な政策が必要であるし、子供だけではなく、親が安心して子育てを行える環境を作っていくことが重要だと思います。


投稿者: fantasista | 2014年01月20日 21:04

私には始め、「避難生活を余儀なくされている人々」と「児童虐待」が結びついていると考えたことがなかったので、この記事を読んで衝撃を受けました。しかしこれを読んだ後は、たしかに震災や福島第一原発事故により避難生活を余儀なくされた人々は当然ストレスも溜まると思いますが、同じようにストレスを感じているであろう子供たちが、さらに虐待を受けるということはとても恐ろしいことだと思います。この場合、親の責任も当然ありますが、全て親が悪いのではないと思うので一刻も早く復興を急ぎこの状況を変えなければいけないのだと痛感しました。


投稿者: わいえむ | 2014年01月21日 13:53

東北出身の私ですが、このような事実は全く知りませんでした。
報道やドキュメンタリーでは、震災の悲惨さや、その苦しい中での人々の助け合いの様子など感動できるような良いエピソードばかりが映されています。
テレビなどではなかなか取り上げられないかもしれませんが、実際に起こっている事実として目を背けてはいけないと感じました。
国もこの事実を受けて、一刻も早く何らかの措置を講じなければならないと思います。


投稿者: 清春 | 2014年01月22日 01:36

記事にあるように、現行の社会保障制度の一番の問題は、負担の増加よりも、今後どのような保障がなされ、どのように改善されるのかという明確なビジョンが示されていないことにあると思う。国民に負担増をお願いするのであれば、それとともに具体的な保障内容が提示されるのは当然のことである。震災に対する対応も決して十分とは思えない。被災された方々のストレスの根本にあるのは、まさに先行きに対する不透明感であると思う。仮設住宅を準備し、生活の形だけを保障するのは、本来の社会保障の姿からはかけ離れてしまっている。支援を求めている人々の心のケアも含めた支援こそが本来の社会保障であり、それこそが今の国に一番求められていることであると感じる。


投稿者: senka | 2014年01月22日 12:16

震災の影響で児童虐待件数が増加しているとは思ってもいませんでした。自分の考えは、震災で生き残れたのだから家族を大切に生きていこうとみんなが思っているものだと、思っていました。でも、よくよく考えてみればたしかに仮設住宅での生活や県外避難による慣れない土地ゆえの孤立によってストレスを感じてしまうのはもっともだと思いました。また、介護負担については、負担がだんだん大きくなっているというのはいろいろなところで耳にしていて、自分の代ではどのぐらいになってしまうのだろうと考えたり、逆に自分が介護してもらう側になった時、ちゃんと介護してもらえるのだろうかと考えたり心配が尽きません。安心できる暮らしというのは国民全員の望みだと思います。社会保障や社会福祉が、国民の安心できる暮らしを具体的に指し示してくれることを自分は強く期待しています。


投稿者: ストッパ | 2014年01月29日 05:15

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
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