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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

蘇りに向けて

 先月の中旬、越前海岸を訪ねました。ここで蘇りへの感謝の祈りにしばし佇ずみ、日本海に沈む美しい夕陽を眺めました。宿の方から、水平線に沈む夕陽が見えるのは今年初めてのことだと伺いました。

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越前海岸からの夕陽

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 福井県は、日本屈指の美しい海岸線が広がっています。万葉集にも「若狭なる三方の海の浜清みい往き還らひ見れど飽かぬかも」(若狭に来て三方の湖の浜が清らかで、行ったり来たりいろんな場所から眺めても飽きることがない)と詠まれています。

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世久見湾の鳥辺島を眺望する

 海の幸は文句なくすばらしい。
 小浜は古より畿内に向かう鯖街道の起点でしたし、若狭湾の牡蠣、三方湖の天然うなぎ、越前海岸のカニなど、この土地ならではの食材に溢れ、どれもこれも超旨! とりわけ、今回は現地の友人の好意でノドグロ(アカムツ)の刺身をご馳走になりましたが、この美味はもう、たとえようがありません-beyond description !!

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三方五湖の天然うなぎ

 小浜を中心とする若狭箸の生産は畿内に箸を供給し続けて400年以上の伝統があり、東日本大震災の避難所で割り箸を使い回ししている報道に接しては、若狭塗の生産者が支援物資の箸を現地まで届けたエピソードも残っています。

 このように福井には、お金だけに還元することのできない貴重な自然・文化・人があり、この素晴らしさは子々孫々に至るまで育み続けたいと思わず願ってしまうのです。が、ここには14基もの原子力発電所が存在しています。

 東日本大震災から一年を過ぎた後に亡くなり、震災関連死と認定された人は、今年の2月末までで2,547人に達し、この内1,337人は福島県であったことが報道されました。
 この認定数は、阪神淡路大震災における「震災関連死」の基準を踏襲した人数に過ぎず、津波と原発事故に伴う被災者の困難の特質をふまえた認定数ではありません。つまり、この人数は氷山の一角であり、認定の脚下に対する再認定の申し立ても相次いでいます(朝日新聞3月30日朝刊)。

 震災関連死の認定は、災害弔慰金の支給に直結しています。このような認定の基準に津波と原発の被害が加味されていないというのは、到底納得できる代物ではありません。

 また、仮設住宅にしてもバリアフリーではありません。入り口の段差、仮設住宅周囲の砂利道、狭い浴槽にトイレ-障害のある人たち(もちろん子どもから高齢者を含みます)には仮設住宅にさえ入居できない困難のあることが指摘されてきました。

 仮にこのような不便を押して入居しても、狭い仮設住宅の中で夫婦・親子の関係や〈介護者・養護者-高齢者・障害者〉の間柄が不適切に煮詰まってしまうことは、あまりにも当然の成り行きではないでしょうか。この延長線上で虐待やDVが発生したとすれば、その責任を当事者のみに帰することは決してできないと考えます。

 さらに、介護や障害福祉サービスの事業所が何とか再開にこぎつけても、支援者の人手は避難で一向に戻らないために、入浴サービスさえ思うように実施できない現実が未だに放置されているのです。

 福島の放射線量の高い地域では、地域住民も支援者も離れ離れになることを余儀なくされました。原発事故によって地域住民がちりぢりになった現実の下で、「顔なじみ」の支援者を求めるのは切実な心の運びです。そして、顔なじみの親しい間柄の支援者を頼って、片道2時間を超えるような遠方のサービス利用を強いられる事態が続いています。

 津波や原発事故の被害によって地域社会と家族そのものが喪失された現実を前にしても、地域社会に基盤を置いた家族志向のサービス(family orientated servicies based on community-英シーボーム委員会報告書)が実現できるというような幻想をふりまくのでしょうか?

 震災直後の混乱期に限れば、被災者が忍従を強いられる場面があるのも、あるいはやむを得ないことかも知れません。しかし、すでに2年以上の歳月が経っているのです。避難生活の疲労が重なって死に至る人たちが後を絶たず、高齢者・障害者への支援が未だに行き届いていない今日の現実は、もはや〈社会的虐待(social abuse)〉という人権侵害の極みだと言うほかありません。

 障害のある人の権利擁護は、社会と政府が障害のある人とその家族にディーセント・ライフを営む権利を保障する義務を履行しなければならないことに議論の出発点があります。
 あらゆる虐待から障害のある人を守り、十分な食物、適切な住居、教育・労働・保健・福祉・医療に関する必要なケア、社会への全面的な参画を保障することのすべてが、このような義務に含まれます。

 そして、社会と政府がこのような人権とニーズを満たさない状態を〈社会的虐待〉と言い、それは障害のある人に対する差別と交錯する性格を持っています(この点は、子どもや高齢者の社会的虐待についても同様です。次を参照されたい。(1)ロビン・E・クラーク他編著『子ども虐待問題百科事典』、213頁、明石書店、2002年
 (2)日本高齢者虐待防止センターの解説ページ、http://www.jcpea.net/cn2/pg33.html)。

 自然破壊も深刻です。イギリスのインディペンデント紙は、福島第一原発の重大事故の環境への影響を調査している国際チームが、DNAの突然変異による野鳥の減少・死滅が深刻な事態にあり、チェルノブイリの場合よりも重大な悪影響をもたらしていることを報告しています。原発事故とツバメに対する私の杞憂(2011年7月11日ブログ参照)は現実のものとなりました
http://www.independent.co.uk/news/world/asia/bird-numbers-plummet-around-stricken-fukushima-plant-6348724.html。日本野鳥の会の次のページも参照されたい。http://www.wbsj.org/nature/research/tsubame/result2012_tsubame.html#05)。

 地球における生命の誕生以来、自然とともにある様々な命の営みは、死と蘇りの連鎖の中で、ゆたかさの再生産と創造を絶え間なく続けてきました。このようなつながりの中に生きてきたはずの私たちだけが、地球規模の、多様な命に対する冒涜を反省できなくなっているのでしょうか。自然界にはあり得ない「死に至る放射性物質」を垂れ流すことによって、人間を含むさまざまな命と尊厳を危機に貶めているのに。

 命と暮らしの連鎖を蘇生させる営みは、神の御業に匹敵する難事業です。この因果で困難な課題に応えることができないとすれば、私たちは人類史上初の未来を喪失した当事者となるかも知れません。

 今月、私は福島に足を運びます。このブログでは、福島の現実から未来に接近するルポと考察を大切にしたいと考えています。復活したこのブログをどうかよろしく!!

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越前海岸潮吹き岩のレインボー


コメント


そっと両手を胸に 自然なる大地に感謝し 
波うつこころ いのちに感謝 今を生きる


投稿者: 夕陽 | 2013年04月02日 23:23

先生のブログを見て、そのようなところも行きたいなぁと思っています。前に旅行したの時、自然の景色を見ながら心の中からある感動、感謝、生のような気持ちが起きた、日常でそういう気持ちが起きられなく、一人旅をしてその気持ちを探したい、だから、旅が好きです。今度、福島へ行きたい、テレビで見た鍾乳洞を行きたい。テレビで見たとき素晴らしいと頭裏に思い出しました。先生は鍾乳洞へ行ったことがありますか。


投稿者: 毛 ショウロ | 2013年05月15日 15:18

素敵な写真を見て、この日本の自然をいつまでも残していくことが今を生きる私たちの使命のように思えました。震災から2年たっても原発の風評被害はあとをたちません。福島県から少し離れた地元の群馬県でも農作物の放射能汚染が騒がれました。福島県出身の友達も将来、結婚や出産などに不安を抱えています。みんなが安心して暮らせる日本にしていくためには政府の正しい指導や適切な情報、国民の理解が不可欠だと思います。みんなの力で少しずつでも美しい日本を取り戻せたらと思います。


投稿者: ディッキちゃん | 2013年07月02日 17:48

震災からもう2年半が過ぎようとしています。今までたくさんの支援が行われてきましたが、それでも津波にのまれ木が根こそぎ持ってかれてしまったままの荒れ地や、放射能に汚染された海水などまだ蘇っていない自然は多いです。津波という自然によって、自然が傷つけられてしまったのです。この震災で自然の恐ろしさを知ると同時に自然の大切さも同時に学びました。自然はいつでも私たちに大切なことを教えてくれますね。


投稿者: midori | 2013年07月10日 15:02

震災直後では仮設住宅をバリアフリーにすることについてまでは考える余裕がなかったのではないかと思いますが,震災から2年以上が経つ今では,高齢者や障害者の方たちについてもしっかり考えるべきだと思います。
そのためには私たちができることは,震災について忘れないこと,被害に遭った方たちのことを考えることが大切だと思います。メディア等も常に報道するべきだと思います。ちなみにですが,広島や長崎に原爆が落とされたことも忘れないでほしいです。


投稿者: あーちん | 2013年07月18日 14:50

 私は大学入学前の春休みに気仙沼の老人ホームを訪れるボランティアに参加しました。そこで仮設住宅を訪れ、被災地の子供たちと遊ぶ機会もあったのですが、そこにはやはり先生がおっしゃているように「社会的虐待」があったように思います。
 そこで私は子供たちが遊ぶ場所が十分にないことがすぐに分かりました。親御さんに話を聞いてみると、仮設住宅団地の近くに公園などはなく、団地のなかには外で子供が騒ぐことを嫌う人もいるので外で子供が遊んでいると怒られてしまうことがあるので自由に外で遊ばすことができない、しかし仮設住宅内は狭いうえに防音が効いてないので子供たちは住宅の外でも中でも満足できるように遊ぶことができないない、とおっしゃていました。 
 ただ"子供が遊ぶ"だけで、こんなに気を使わなければならず、こどもたちにも親御さんにもストレスがたまるなんて絶対におかしいと思います。正直、このようなストレスが積み重なっていくと、つい子供に手がでてしまい「虐待」という最悪な展開に陥ってしまうのも分かるような気もします。
 2年以上が経った現在でも、被災地の方々の人権は全然保証されていないのは事実です。政府の復興はインフラの整備等に重心が置かれがちですが、もっともっと人権の保障に尽力すべきだと思います。


投稿者: ねずみ男 | 2013年07月19日 23:32

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
タイトル:『障害者虐待 その理解と防止のために』
編著者:宗澤忠雄
定価:¥3,150(税込)
発行:中央法規
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