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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

いく度となく訪れたくなる宿

 旅は、生活と人生にもうける大切な“間”。忙しい日常から離れることによって、自分らしさを取り戻す、ルーティンを振り返る、自分なりの節目をつくる、何かの記念日にする、新しい世界にふれて澱んだ日常に活を入れる…等々、旅の“間”としての意味は人それぞれに多彩です。
 私には、これらのすべての意味を包みこんで訪れてきた一軒の宿があります。栃木県日光市にある川俣温泉の国民宿舎渓山荘(http://www.keizansou.jp/)には、少なくとも30回は訪れました。

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国民宿舎渓山荘

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 直近で訪れたのは、さいたま市の条例づくりから解放されてのひとときです。渓山荘は山深い渓谷に位置するため、ある日の朝方は氷点下12℃まで気温が下がり、車内のペットボトルは完全に氷結しました。しかし、まずは極上のまろやかな湯が私を包みこみ、静けさの中で読書にふけり、さまざまな野鳥の囀りは私をよみがえらせてくれました。

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ペットボトルは完全氷結

 いく度訪れても、私の期待を裏切ることはありません。親父の慰労に、娘とのトレッキングに、原稿執筆の合間にと、折にふれては訪れてきました。

 昨今、「一度は泊ってみたい宿」が何やら騒がしい。マスコミのもてはやす「旅のプロ(?)の選んだ宿100選」は、私にとっては笑止千万です。それは恰も、旅のもつさまざまな彩を貨幣経済的に収斂して肥大化させた「欲求の個人主義」(作田啓一著『個人主義の運命』、岩波新書)の権化のようです。

 日々の買物にも“間”としての意味を持つことがあります。その多様な意味について、日本橋は一流百貨店の呉服売り場にある「おもてなし」や「品質」を基準にとやかく騒がれても、午後8時を回ったあたりの、スーパーの惣菜売り場の「見切り売り」にもっぱら関心を寄せる私にはまったくピンときません。

 そこで、私にとっての充実した旅の“間”の要件とこの宿の特長は次のようになります。
(1)いいお湯
 源泉掛け流しで、まどろむように湯に浸かることのできる点は、絶対にはずせない。草津温泉のように、肌への刺激と温泉臭の強いところは避けます。
 渓山荘の湯は絶品です。含硫黄ナトリウム塩化物泉の源泉掛け流し。

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渓山荘の露天

 湯煙にはほのかな硫黄臭に岩肌の香りが漂い、ここに来ると私はこの湯の香りに思わず深呼吸をしてしまいます。透明で肌にやさしい泉質のため、乾燥肌気味の私はこの湯に浸るだけでかゆみが消え、もうしっとり。そして、体の芯から温まります。

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内湯-すばらしい湯の香りに包まれる

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家族湯-渓流に臨むロケーション

(2)静けさ
 思索や読書にふけることのできる静穏な環境は、私にはとても重要です。団体客の宴会で音程の外れたカラオケの歌声が響くようなところはもう最悪。
 渓山荘は、渓流のせせらぎと野鳥のさえずり以外に耳に入るものはありません。以前に初夏に訪れた際には、ツツドリの啼き声が夜半の子守唄になりました。

(3)ゆたかな自然
 奥深い自然の多様性が保たれ、夜は満点の星空の広がるところが望ましい。

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シジュウカラの仲間たち―上からシジュウカラ、ゴジュウカラ、ヤマガラ、ヒガラ、コガラ

 この宿の周辺は森の香りにあふれ、私が野鳥の世界にもっとも魅せられる場所となっています。
 今回はシジュウカラの仲間たちとカケスやアカゲラが、わずかなひと時に姿をあらわしました。普段はなかなか森から出ない習性をもつカケスは、大雪で食べ物を探す必要にかられていたのか、珍しく雪原に姿をあらわしました。アカゲラはドリミングで派手に出迎えてくれました。

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雪原に出てきたカケス

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「何、お前!」と睨みかえすよう

 雪原にみるカケスの珍しい姿にカメラのシャッターを切ると、カケスは即座に「何、お前、文句あるの!」と私を睨みかえすように振り返ります。普段は奥に引っ込んで表に姿を見せない習性といい、出てきたかと思えば睨みかえす態度といい、自治体でいうならさしずめ法制課か財政課のようだと思うのは、条例づくりの疲れのせいでしょうか(笑)。

 渓山荘は、トレッキングや登山の足場にもなるロケーションです。夜に露天湯に浸ると、渓流のせせらぎが耳をかすめ、満点の星空かやわらかな月明かりに包まれるでしょう。

(4)気軽さ
 いたれりつくせりの「おもてなし」は、私には邪魔ものです。そんな接遇をされると、私は背中に悪寒が走るような質だからです。べたつくような「おもてなし」に至っては、「心づけ」を無心されているようで戴けません。
 その点、この宿は、さりげないホスピタリティがまことに好ましい。

(5)食材の豊富さとその土地ならではの一品
 旅先の食事は、高級な料亭やレストランに期待するものとは異なります。日常の家庭料理では手がまわらない食材のゆたかさと、その土地ならではの味わいさえあれば至福です。山間の宿にズワイガニや本マグロの大トロを出されても、私は首をひねるばかりです。

 渓山荘は、公営国民宿舎から出発して民営となった宿です。民営の国民宿舎になってからは、改装が行き届き(各室、冷蔵庫とシャワートイレ完備)、とりわけ食事が良くなりました。食材が豊富になり、この土地ならではの味わいには、イワナかサクラマスなどが必ず出てくるようになりました。たとえば、夕飯メニューは次のようです。

・イワナの塩焼き、又は、サクラマスのから揚げ(骨ごとサクサク食べる逸品)
・お刺身(サーモン、マグロ、熊肉などのいずれかと刺身こんにゃく)
・カボチャとシイタケ、又は、イカと大根などの煮物にインゲンをあしらった一品
・タコ・キュウリ・ナマスの酢の物
・天ぷら(エビと野菜類)、又は、白身魚のフライのキャベツ添え
・小鍋(鴨すき、牡蠣鍋など)
・山菜煮物
・お吸い物とお漬物
・ご飯(一粒一粒が輝いています)
・果物(イチゴなど)

 朝食には、ヤマメの甘露煮や「平家納豆」が出てきますから、食事にこれ以上望むことはないでしょう

 いいお湯に、味わいのある食事に、心静まる自然-これほどご機嫌になれる宿はめったにありません。

 構造改革の下、一方では、公共の宿はどんどんと姿を消し、他方では、「旅をマネジメントするプロ」(この輩は、決して「旅のプロ」ではありません!)が自らを利するためにつくった評価基準にしたがって、「一度は泊ってみたい宿」を操作的に作り上げてきました。

 懐具合が寒くなる一方の庶民は、疲れ気味の毎日に、旅の“束の間”を持つことさえ難しくなりました。「旅のプロ」を詐称する大手旅行代理店と高級旅館の商業コラボに過ぎない「呉越同舟」にはここらできっぱりと見切りをつけ、気さくで温か味のある「いく度となく訪れたくなる宿」に、皆さんもっと眼を向けてみませんか。


コメント


 いやぁ、見るからに素晴らしい宿と温泉ですね。私は九州在住者で、いくつもの良泉を知っていますが、この宿にもぜひ訪れてみたいものです。新自由主義的経済政策の下で、九州でも良泉を持つ多くの国民宿舎が消えていきました。本当に嘆かわしい事態です。渓山荘のような良い宿は、ずっと残ってほしいものです。そのためにも、みんなで大いに利用しましょう。


投稿者: Z2rider | 2011年03月09日 23:23

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
タイトル:『障害者虐待 その理解と防止のために』
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発行:中央法規
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