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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

ワンストップ・サービスでワークフェア?

 昨今、「ワンストップ・サービス」が盛んに取り上げられるようになりました。さまざまな支援の入口にあたる相談サービスは、確かにワンストップであることが基本です。生活上の困難は複数の問題が錯綜していることが一般的ですから、行政機構の縦割りやサービス提供者側の都合によって、たらい回しにされたり、複数の機関に足を運ばなければならない不都合を避ける仕組みが必要な配慮の一つと言うことができます。
 しかし、最近のワンストップ・サービスは、ワークフェア志向の政策であることは明白なように思えます。

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 厚生労働省のホームページによれば、ワンストップ・サービスの内容は「職業相談などの、通常のハローワークで提供するサービスに加え、住居・生活支援等の各種支援サービスの相談・手続きを実施」するものと説明しています。「Workfare」とは「Work」と「Welfare」の二つから合成された単語で、働くことを奨励する福祉政策を意味します。それは、福祉受給者に対して「勤労」を義務づけることによって自立を促進し、財政支出面では保護費等の抑制をはかる政策のことにほかなりません。

 このようなサービスが地域の実情に応じて提供されることは、利用者サイドからみれば明らかな利点と前進があるでしょう。
 現住所がないために定職に就けない、定職がなく保証人もいないから住まいを確保することができない、生活支援についてはどのような制度があって必要な手続きは何かさえ分からない、そして、これらがすべて重複しているような状態で生活困窮から抜け出せなくなっている人たちは大勢いることでしょう。したがって、就労・住居・生活支援の3点セットの相談を一ヶ所で利用できるのですから、それぞれの担当者の連携も迅速に行なえる利点も含めて、メリットははかりしれないと考えることができます。

 しかし、現在のワンストップ・サービスが事態を打開するのかどうかについては、大きな疑問が残ります。
 今年の初めあたりに、東京都が実施した「年越し派遣村」で就職支度金を「持ち逃げ」した利用者がおり、それに対して「カラス嫌い」の某政治家が報道陣に怒りをあらわにする光景が報道されました。この「官制年越し派遣村」の取り組みも、ワークフェア志向のワンストップ・サービスの一環として実施された性格を持ちます。

 ここで、「持ち逃げ」した人たちがなぜ出来したのか?
 一年前の「民間年越し派遣村」活動から一年間にわたる就労への努力を重ねてきてもなお、就労できなかったという事実がホームレスの人たちの体験として共有されているからです。もちろん、「努力を重ねても就職できなかった」からといって、決して就職支度金を「持ち逃げ」していい訳ではありません。しかしながら、失業・不安定就労・低賃金等に由来する構造的な貧困の問題を「個人の怠惰」に帰結させるような無理解は19世紀的な貧困理解であり、現代人としての良識と品性を欠くものといわざるを得ません。20世紀初頭のシーボーム・ラウントリーやチャールズ・ブースが実施した貧困調査の歴史的意義さえわきまえない態度は、およそ社会福祉を語る資格はないものといえるでしょう。

 20世紀初頭の貧困調査を起点にして、20世紀型の福祉国家への歩みが進められていったこと広く知られているところです。その原則の一つには「完全雇用」が位置づいていました。つまり、福祉国家を成立させる要件の一つに完全雇用政策が重要視されていたということです。
 このようにみてくると、現在の雇用情勢の下では「ワンストップ」というサービスの提供手法を用いたからといって就労保障につながる現実にはないというのがことの真相ではないでしょうか。そのことを客観的に訴えた事件が、就職支度金の「持ち逃げ」だったように私には思えます。

 国は完全雇用を実現するための政策を実施することを前提に、地域における取り組みを「ワンストップ・サービス」で進めるという形でなければ有効な政策とはなりません。完全雇用の実現に対する国家責任を欠いたままの「ワンストップ・サービス」は、事態の本質に対応しない「露払い」(いかにも「前向きにやっています」というポーズ程度のポプュリズム)の誹りを免れ得ないでしょう。そのような現在の「ワンストップ・サービス」が母子家庭や障害のある人の世帯にまで及ぶようなことがもしあるとすれば、それは本末転倒な施策としか評価できず、地域の実情はますます困難を深めつつ事態は液状化することになるでしょう。


コメント


地域間における経済格差は甚だしいものだと思う。各自治体の対応が今後の世代の生活に大きく関わってくると思った。


投稿者: つちのこ | 2010年07月28日 13:31

「ワンストップ・サービスは複数の機関に足を運ばなければならない不都合を避ける仕組みが必要な配慮の一つと言うことができます。しかし、最近のワンストップ・サービスは、ワークフェア志向の政策であることは明白なように思えます。」ブログを拝見して、確かにそのとおりかもしれない、とはっとしました。
一見有効に見えるが、本質的な解決になっていない政策というのは、多数存在していると思います。私もこのブログを拝見してワンストップ・サービスの今後のあり方、改善点を考えてはみましたが、有効なものが思いつきませんでした…よろしければ、今後のブログ中で再びこの問題を取り扱っていただき、もっとつきつめた意見をお聞かせいただきたいです。


投稿者: D4C | 2011年01月15日 03:24

 このごろの日本の失業者は何か違うと私は感じています。
 多くの人は仕事を欲しているがもらえないでいるのに対して、そのほかの少数の人たちは働くことに興味を持っていないために失業者でいるひとがいるように思えるからです。
 日本の福祉は他の先進国に比べて劣っているのでこれから福祉を充実させていくべきだと考えていますが、失業者全員がただで受けるのではなく、受ける際に条件付きでその福祉を受ける権利を与えるなどをして、頑張っている人が損をしないような社会にしていってほしいです。


投稿者: ウメシソヒジキ | 2011年01月17日 00:25

 「年越し派遣村」での就職支度金の「持ち逃げ」。
 このニュースを聞いて、せっかくホームレスの人たちに就職先を見つけようと頑張っているのに、なんてひどいことをする人間がいるんだと憤慨した記憶があります。
 しかし、宗澤先生の記事を読み、自分の考えの浅さを知りました。
何よりも仕事と住む場所を求めているだろう人々が、目の前のお金に目がくらんだなどという理由だで、せっかくの機会を逃すような行動を簡単にとるはずがないのですね。
 「ワンストップ・サービス」という見かけだけはいかにも素晴らしいようにみせた政策は、フタを開けてみれば、完全雇用の実現という重要な原則が欠けており、就労保障につながる現実にはない。
その場しのぎの政策を打ち立て、何か動き出すのは問題が起きてから。
 発展した国でありながら、日本が福祉の面において他の国々に遅れを見せるのは、そんな福祉に対する姿勢があるからではないかとも思いました。


投稿者: クラ | 2011年01月21日 01:49

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
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発行:中央法規
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