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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

長崎の取り組みから学ぶ-社会福祉法人南高愛隣会(コロニー雲仙)

 佐賀に引き続き、今度は長崎を訪ねました。ここには、障害者自立支援法施行のかなり以前から地域生活ベースの取り組みに挑んできたコロニー雲仙グループ(社会福祉法人南高愛隣会)があります。同グループは入所型施設を2007年にすべて閉鎖し、09年9月1日現在のグループホーム・ケアホーム数は長崎全県域で122棟に及びます。このような取り組みの中で直面した困難や教訓の実際はどのようなものだったのでしょうか。
 訪問させていただいた当日はあいにくの大雨で、しかも法人の重要な取り組みが迫る最中であったにも拘らず、佐世保生活支援センター「はぴねす」所長の山下早苗さんをはじめ、グループホーム・ケアホーム(以下、GH・CHと略)の支援関係者の皆さんには視察へのご協力を賜りました。ここに深く感謝申し上げます。

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写真1 佐世保生活支援センター所長山下早苗さん

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 まず、コロニー雲仙グループの地域生活ベースの支援の発展は、支援者と事業者全体の長期にわたる信実な取り組みによるものです。下の図は、現在122棟あるGH・CHの中で、雲仙市瑞穂町に一群を構成する「GH・CHさいごう」(8棟、定員29名)の歩みを表したものです。ここに明らかなように、試行錯誤の段階から、GHでの本格的な取り組みへシフトしながら、障害の重い人たちへの支援や夫婦生活・子育て生活への支援のあり方を含む実践課題を追及してきています。

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図1 「GH・CHさいごう」の歩み―社会福祉法人南高愛隣会のパンフレットより

 これらの経緯を受けて、現在は第7次整備5か年計画「弱者を包み込む地域づくり」をテーマにする取組みに発展しています。その詳細はホームページで紹介されていますのでぜひご覧下さい(社会福祉法人南高愛隣会のホームページhttp://www.airinkai.or.jp/)。
 ここで確認すべき重要な点は、国の施策の方向が「地域生活移行」になったからといって、どの事業者でも地域生活ベースの支援をすぐさま展開できるわけではないということです。つまり、地域社会に開かれた支援を組み立てることのできる支援力量の形成には、信実な一定期間の蓄積が個々の支援者にも事業者にも必要です。

 次に、同法人のGH・CHについての取り組みは、長崎県全域のネットワークをフルに活かして展開されています。かつて運営していた二つの入所型施設には、県全域からの入所がありましたから、「故郷・生まれ育ったまちに」地域の暮らしを創るには、県全域での地域生活支援が必要とされました。

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図2 長崎県全域に設けられた支援拠点となるセンター―同法人パンフレットより

 この必要性が、GH・CHの入居者の組み合わせ・マッチング、ライフステージに応じた住み替え(仕事先の変更・結婚等による)などへの対応に、122棟ものGH・CHから構成される地域ごとのネットワークが活かされています。
 一つの事業者が県全域のネットワークを構成するというのは、社会福祉法人南高愛隣会ならではの取り組みと言えるでしょう。通常は、複数の事業者がそれぞれに運営するGH・CHの支援ネットワークを広域で組織し、入居者のマッチングの調整や住み替えに対応できるシステムをつくる課題が地域支援策としていくことの重要性が浮上します。この点は、たとえば地域自立支援協議会の中に「GH・CH運営協議会」のようなネットワークを常設化する等が考えられます。

 三つ目に、山下さんのご説明を伺いながら私が取り組みの実際における要点と感じたことをまとめておきます。
(1)地域生活ベースの支援に取り組んでいくためには、GH・CHに関する取り組みだけではなく、本格的な働くことの保障に向けた取り組みを同時並行させることが重要であることです。南高愛隣会では触法性のある方への支援にも、更生保護施設や地域生活定着支援センターを設置して取り組んでいます。

(2)サポーターやボランティアをといった「地域の人たち」の協力を組織することと公的な制度活用の両面から地域の暮らしを支えていくことです。ここでは、恋愛と結婚に向けた出会いの場づくりに地域の「世話好きな方たち」の協力があることも伺いました。恋愛・結婚のようなプライベートな新しい親密圏を共につくるには、公共の立場に立つ職員ではなく、地域の人たちこそふさわしいといえるでしょう。

(3)支援者が積極的に地域に足を運ぶ支援を展開することです。とくにGH・CHの開設の前段階からの取り組みが大切で、例えば、足繁く不動産屋回りをしながら不動産屋さんや地域の協力者をつくりながら開設に向かう等です。ここでは、新しくGH・CHで暮らすようになる利用者個々の顔や生活の中での癖を具体的に想いうかべながら、一つのGHを開設するために120軒もの物件に当ったことがあるという話を伺いました。

(4)小規模な住まいであることにつきまとう、支援者の孤立や独りよがりで不適切な支援を回避するための工夫についてです。利用者定員30名を目安にGH・CHの一群を構成単位とすることによって、この単位ごとに〈サービス管理責任者1名、世話人5名、生活支援員+α〉からなるチーム支援を徹底することです。このチーム支援は、病人が出たような場合の各ホームの状況変化に応じた柔軟な支援体制づくりにも役立てられています。他県の通常の施策としてこの点を構想すると、一つの事業者当たりのGH・CH群の定員を最低30名とすることによって、GH・CHの支援が個々のホームの支援者任せになるのではなく、チームで展開されるようしていく工夫が必要となるでしょう。このチームの中に、看護職や介護職を配置できれば、複数のGH・CHの支援に専門職を共有して活用する展望も拓かれます。

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写真2 視察させていただいた居室―首都圏よりも畳一枚が広い

 最後に、佐賀県と同様、長崎県は畳一枚の面積が、首都圏よりも広い点を指摘しておかなければなりません。実際に見せていただいた諫早市内のGH・CHの居室は、6畳でも首都圏の感覚では8畳近くの広さに思えました。前回のブログにあるさいたま市と佐賀県の比較表において、畳数・居室数の相違よりも平米で表示される住居の広さに大きな差が表れるのは、畳一枚の面積が首都圏と西日本では異なる点も重要な要素になっています。

 長崎といえば東シナ海に面した漁港が多く、魚介類の実にゆたかなところです。写真にあるような温泉に浸かりながら、東シナ海に沈む夕日を眺めるなんてこともできるすばらしい土地でした。

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写真3 波の湯茜―雲仙市小浜温泉


コメント


 以前、仕事で都内のGHを見学し、世話人の方のお話を伺う機会がありました。
 居室の狭さなど環境面もさることながら、世話人の方が1人という大変さ、難しさを感じました。
 紹介されている長崎県の取り組みのように、チームで支援することが切に望まれると思います。「ふつうの場所で愛する人との暮らし」が当たり前になるよう、長崎だけでなく、各地でがんばっていかなくてはなりませんね。


投稿者: 缶コーヒー | 2009年11月20日 06:29

「ふつうの場所でふつうの暮らしを」「愛する人との暮らし」 コロニー雲仙のホームページに書あげられているこの言葉にとても大きな意味が込められていると感じた。私たちが当たり前のようにやっていることが、当たり前ではないこの世界の人たちのことにもっと目を向けるべきだと痛感した。 と同時に地域密着型のこのような施設が全国ではまだ少ないことに心が痛んだ。
 長崎県のようなチーム体制を作ることでここで働こうとする人も増えて、よりよりサービスが行きとどくようになるのではないかと強く思うとともに、そういう風にしていかなくてはならないと、意気込みといったらおかしいかもしれないがそう感じた。


投稿者: hitomi | 2009年11月25日 07:06

 こんにちは。前回の佐賀県地域共生ステーションの記事で書き込みせせていただいた者です。

 この記事で紹介されているコロニー雲仙グループでは長崎県全域をカバーするネットワークや支援のないようなど充実していますが、中でも私は結婚生活についてのサポートサービスに感銘を受けました。
 大学での講義でも取り上げられましが、障害者の方が恋愛すること、結婚願望があることを鼻で笑うような行為は許せません。私も当然にそれは虐待であるという認識を持っています。なのでこのような福祉の取り組みは大変に意義あるものだと思います。
 ホームページを拝見させていただきましたが、子どもを授かる夫婦もいるようで親としての自覚が本人たちに新たな考え方、感じ方を与えてくれるものだと思います。
 これから日本ではもっと前回の佐賀県の地域共生ステーションや今回のコロニー雲仙グループなど、より良質な福祉サービスが提供されることを願います。


投稿者: YA | 2010年01月08日 01:54

 8ヶ月になるPちゃんのご両親はどちらも知的障害を持っていますが、地域でPちゃんを保育所に預けて働き、お二人とも生き生きと子育てや生活を楽しんでおられます。しかしご一家を取り巻く現実は楽しいばかりではないようです。
 このコロニー雲仙グループのような支援体制が整っていないために生活の多くはPちゃんのおばあちゃんたちであるご両親の母親に手助けしてもらっており、おばあちゃんたちにとっても色々な意味で負担になっているようです。
 また、地域の支援者、保育所、民生委員、保健師などの連携が取れておらず、せっかくの支援もうまく機能できていない事もあります。「ふつうの場所で愛する人とともに暮らす」という当たり前の事が当たり前に現実となるようにコロニー雲仙グループのような活動を参考に、全国どこにも支援体制が整えられていかなければならないと思います。


投稿者: 外洋回遊魚 | 2010年01月09日 02:07

 私は長崎県出身なのに、長崎にコロニー雲仙などの施設があることを知りませんでした。長崎県は田舎ですが、海がとてもきれいで、なにより食材が新鮮なので料理がとてもおいしく、とてもいいところです。都会のように、地域のつながりが希薄になっていることも少なく、地域が助け合いながら生活しているところが多く、いわゆる「世話好きおばさん」が多くいるので、障害のある人も安心して住みやすい町なのではないかなと思います。
 しかし、やはり生まれ育った大好きな故郷で暮らしたいというのは誰しもが思っていることで、障害のある人ならなおさら見ず知らずの新しい土地で一から生活を始めるよりも、慣れ親しんだ土地で生活することが一番だと思います。なので、コロニー雲仙のような地域に密着した支援施設を全国各地に設けることが重要なことだと考えました。


投稿者: さーもん | 2010年01月13日 13:52

 入所型施設を全て廃止したというのは非常に素晴らしいと思います。
 障害者や高齢者がグループホーム・ケアホームで暮らすということは、人生を拘束されるということでもあると思います。知的障害者の方はなかなか自分が拘束されているということに気づかないかもしれませんが、だからといって拘束していいことにはなりません。
 宗澤先生が北九州市立大学で講義してくださった際、障害者の施設での虐待の話が出てきました。講義の中で、障害者の虐待とは、障害のある人の人権を侵害する行為のすべてをさすものであるという定義がなされていました。生活を拘束される入所型施設に本人の意思に関係なく入れられることは虐待だと思います。無責任に施設入所させる人ばかりだとは思いませんが、中にはいると思います。コロニー雲仙グループの他にもたくさんの社会福祉法人が入所型施設を解体し、障害者が地域社会で暮らせるように整備してほしいと思います。


投稿者: ダンボ | 2010年01月13日 21:59

 私が生まれ育ったところは、北海道の鷹栖というまちです。地域に入所/通所型のグループホーム・大雪(たいせつ)の園があり、小学校の運動会やもちつきなど、学校や大雪の園の行事があるときは私たち生徒と園生の人たち、地域の人たちが参加するかたちになっていました。
 そのときは「のーまらいぜーしょん」なんて意味もよくわからず言葉だけ知っていたという状況でしたが、いま振り返ると、なんだかよくわからないままにそういう接点が多かったというのは、いま私が「障害」というもの、社会のあり方を考えるうえで、大事な基礎をつくってくれていたなと思っています。
 ただ、私の地元の地域は田んぼが広がる田舎であり、当時全校生徒が10数人規模の小学校があるようなところなのに、通所・入所している園生の人たちが圧倒的に多かったというのは、それぞれのまちで受け入れられない障害を持つ人々が流れてきているということでしょう。
 福祉施設で働くお連れ合いをもつ友人に聞いた話で、「大雪の園のように、重い障害をもつ、しかも高齢の人を受け入れてくれるところは極めて少なく、全道から集まってきている」とのこと。ブログに、「『故郷・生まれ育ったまちに』地域の暮らしを創るには、県全域での地域生活支援が必要」とありますが、面積の広い北海道で、大雪の園ではどのように考え、取り組んでいるのかを今度帰省したときに聞いてみたいと思います。

鷹栖共生会・大雪の園HP
http://www.fukutaka.or.jp/
よかったら見てみてください。
作業所「みらい」で作っている豆腐が絶品で、一昨年から開店した「伝承館」で豆腐料理が食べられます。鷹栖産の大豆を使っています。北海道の旭川近辺に行くことがあればぜひ!おすすめです。


投稿者: あすみ | 2010年01月14日 15:35

 私が生まれ育ったところは、北海道の鷹栖というまちです。地域に通所型のグループホーム・大雪(たいせつ)の園があり、小学校の運動会やもちつきなど、学校や大雪の園の行事があるときは私たち生徒と園生の人たち、地域の人たちが参加するかたちになっていました。
 そのときは「のーまらいぜーしょん」なんて意味もよくわからず言葉だけ知っていたという状況でしたが、いま振り返ると、なんだかよくわからないままにそういう接点が多かったというのは、いま私が「障害」というもの、社会のあり方を考えるうえで、大事な基礎をつくってくれていたなと思っています。
 ただ、私の地元の地域は田んぼが広がる田舎であり、当時全校生徒が10数人規模の小学校があるようなところなのに、通所・入所している園生の人たちが圧倒的に多かったというのは、街で受け入れられない障害を持つ人々が流れてきているということでしょう。
 福祉施設で働くお連れ合いをもつ友人に聞いた話で、「大雪の園のように、重い障害をもつ、しかも高齢の人を受け入れてくれるところは極めて少なく、全道から集まってきている」とのこと。ブログに、「『故郷・生まれ育ったまちに』地域の暮らしを創るには、県全域での地域生活支援が必要」とありますが、面積の広い北海道で、大雪の園ではどのように考え、取り組んでいるのかを今度帰省したときに聞いてみたいと思います。

鷹栖共生会・大雪の園HP http://www.fukutaka.or.jp/
 よかったら見てみてください。
 作業所「みらい」で作っている豆腐が絶品で、一昨年から開店した「伝承館」で豆腐料理が食べられます。鷹栖産の大豆を使っています。北海道の旭川近辺に行くことがあればぜひ、おすすめします。


投稿者: あすみ | 2010年02月01日 10:51

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
タイトル:『障害者虐待 その理解と防止のために』
編著者:宗澤忠雄
定価:¥3,150(税込)
発行:中央法規
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