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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

閑話休題-あるご婦人がかみついた出来事

 某市障害者計画の策定委員会が終盤を迎えたある時のことです。突然、担当課から庁内会議に出席してほしい旨の打診がありました。「今回の計画策定の趣旨・目的・意義について、委員長のほうから市の職員にしっかり伝えてください」との依頼です。
 異例のことですから、何かただならぬ事態が起きているのではないかとの不安が胸をよぎりました。案の定、「計画には数値目標を入れるな」との強い圧力が庁内に高まっていたのです。この計画策定は、担当課から「しっかりと数値目標を設定する」との説明を受けて委員会の協議が出発していますから、担当課にとっても予想しがたい何かの力が働いたのでしょう。

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 そこで私は、庁内会議に出席し、担当課の一通りの説明の後を次いで、計画策定過程に関する説明と政策目標について発言しました。「市町村障害者計画策定指針」に基づき、当事者・市民の参画を最大限にはかってきた経緯を説明し、地域の実情にふさわしい社会資源整備の目標を数値で明らかにすることが、当事者・市民の願いに応える市のあるべき姿であると主張しました。
 ところが、担当課と私の発言に対して、奇妙にも居丈高に発言する手合いがいました。曰く「向こう5年間の予算をあらかじめ束縛するようなことは、あんたたちにできることじゃないでしょう、え~っ?」と。
 どのような所轄課の発言かはみなさんのご想像にお任せします。縦割り行政の弊害とその中枢に巣食う「木っ端役人」の浅はかな性根を目の当たりにしたように思いますが、それと同時に、担当課が最後まで庁内を説得しようと努力しつづけた姿には率直に感銘を受けました。それ以来、私の関係した自治体の障害福祉担当課職員の殆どが、障害当事者・住民の立場から庁内で奮闘する人たちであったことは明言しておきたいと思います。

 さて、フィールドに出向いては協議を重ね、バリアフリー調査まで実施して計画の重点課題と数値目標を出してきた委員会の努力が報われないとなると、これはやはり大問題です。何よりも、みんなやる気を喪失しますね。
 そこで、議長の職権で臨時委員会まで開催して議論しましたが、それでも計画に新たな社会資源整備の課題を明記できない事態が続きました。審議会・委員会・協議会等の運営に関する要綱等には、必ず議長(=会長)の職権によって会議を開くことができると規定されていますが、それも実質的には空文であることを知りました。私が職権によって臨時の会議を開こうとすると、委員報酬の予算がないことを理由に、会議室の用意からして抵抗にあいました。
 計画内容は、利用者主体の相談支援体制の確立と当時の「在宅サービス3本柱」(デイサービス、ショートステイ、ホームヘルプサービス)の拡充という地域生活支援策を中心にしたものであり、特別に大きな予算を必要とする社会資源整備を求めているわけではありませんでした。むしろ、協議のプロセスを育めた分、拡充されるサービス活用を念頭に置いた地域生活イメージを地域の当事者がそれぞれにデッサンできるようになっていた点が、そのときの計画策定における最大の収穫でした。
 それを台無しにしようというのですから、私は腹を括るしかない。「最後まで委員会の協議の到達点で正論を吐きつづけ、結論については市の責任であると宣言する。俺としては、事柄の本質を明らかにして、出処進退を決めるしか道はなかろう」と私は心決めしました。
 庁内会議に押し切られたかたちの担当課は、結局、計画に具体的な整備課題や数値目標を入れることはできないとの最終的な説明を委員会で行いました。そこで突然、高齢でいかにも品の良さそうなご婦人の委員から発言がありました。この方は、委員会で唯一、それまで一度も発言されたことのなかった朗読テープボランティアの方でした。

 「今さら何を言ってんのよ、あんたたち。はじめから数値目標を入れるって約束でしょ。私はね、この委員会に呼ばれた当初は、どうせ市の職員が書いた文書を承認するだけの“シャンシャン”会議だと思っていました」
 「ところが、この委員会はまるで違うじゃない。私の息子のような年恰好の人が議長をして足腰を動かしながら、よくまあみんなでここまで議論できたものだと感心していたのよ」
 「市の会議で、市が勝手に約束を反故にするなんてことは断じて許しません。数値目標を入れなさい!」

 ピシャリです。しばらくの間、みんな呆気にとられて静まり返りました。このご婦人の品の良さと恫喝調の発言のアンバランスも効果覿面だったのでしょうか。間を置いて、事務局から部長が発言しました。「私が全責任をもって、当初のご説明どおり、具体的な社会資源整備の課題と数値目標を明記するようにいたします」と。
 委員会に拍手喝采が起こりました。


コメント


 2010年07月08日の記事などに見られるように、信念を持って身を削ってまで仕事をする人がいます。
 一方、この記事に見られるように「見えない力」に加担するのに精を出す人がいます。
 (いずれにも当てはまらない人もいるかもしれませんが)公務員の人事は、「心身の犠牲を惜しまない人」か「力に従う人」のいずれかを選ぶというものなのでしょうか。私が想像していた以上に悪質です。

 計画がうやむやになりかけ、力に屈する結果になりそうであったところに、筋を通したご婦人の啖呵。見事の一言に尽きます。


投稿者: ジェイ_four_エフ | 2011年01月29日 03:54

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
タイトル:『障害者虐待 その理解と防止のために』
編著者:宗澤忠雄
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発行:中央法規
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