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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

生活文化考4

 田辺聖子さんの『残花亭日暦』(角川書店)は、医師をされてきたご主人が脳梗塞で倒れ、要介護の状態から亡くなるまでの10か月間を日記に綴られた作品です。

 このご夫婦の物語は、先年NHKの朝のドラマ『芋たこなんきん』で放映されましたので、ご存知の方も多いと思います。ご主人は「カモカのおっちゃん」として田辺さんの随筆にも登場する夫として知られていますが、3人のお子さんを残して先立たれた先妻の後添いになられた田辺さんの子育てへの姿勢と奮闘ぶりに、私は敬服の念を抱いています。

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 さて「カモカのおっちゃん」は、脳梗塞で倒れた後、ほとんどリハビリテーション医療を受けなかったそうです。この点を田辺さんは「彼の死生観によるもの」とNHKのインタビュー番組で話されていました。「彼の死生観」がどのようなものであったかは知る由もありませんが、少なくともこのご夫婦がともに戦争をくぐりぬいて生きてきた生活観・人生観を共有されていたこと、その中で直面せざるを得なかった数多くの「死」と医師として直面されてきた患者さんたちの「死」に由来するある種の覚悟のようなものが据わっていたように思えてなりません。

 はじめのうちは、田辺さんの講演などには必ず車椅子に載せたご主人が同道されていますが、ご主人の体の不自由が増すにつれて、小説家としての仕事と介護の両立が難しくなり、疲労と不眠が続く極地で、外部サービスの積極的な活用をされるようになっていきます。
 この間のご主人の様子は断片的な記述のため、詳細は不明ですが、その代わりに、田辺さんがご主人の最期までをどのような日々の心境と暮らしで過ごされていたかを読み取ることができます。この日記に綴られた期間の充実した暮らしぶりに、私は畏敬の念に近いものを憶えました。
 外部のサービスを活用することによって、小説家としての仕事を着々と進められる一方で、介護疲れに陥っていた頃よりむしろ、夫婦としての情愛と夫の衣食住に対する具体的な配慮を充実されている様子が窺えます。この日記を読み進めるうちに、田辺さんの楽天性のようなものだけが浮上していくようですが、それは正確ではありません。ご主人と田辺さんの共有する人生観の一つに「神さんは人の寝首を掻くのが上手い」というのがあって、庶民の暮らしで「気を緩めるとあかん」と引き締めています。だから、ご主人の「要介護度」は日増しに重くなっていきますが、その現実をしっかりと受け止めつつ、ご家族の「生活の質」は時々の輝きを増していくとさえいえるでしょう。
 田辺さんに残したご主人の最後の言葉は、「かんにんな 僕はあんたの 味方やで」だったとか。

 『残花亭日暦』を読むと、改めて障害のあるご本人とご家族の暮らしと生き方を保障することが大切な支援課題であると実感します。「介護予防」や「就労自立」によってサービス利用の敷居を高くしたり、「要介護度」や「障害程度区分」によってサービスの種類や量を決定してしまう仕組みはいかがなものでしょうかね。


コメント


 私は田部聖子さんの小説で「ジョゼと虎と魚たち」という短編集を読みました。
 その小説は、車椅子に乗っている女性が登場し、日々の生活や恋愛などが描かれた、全体的に切ないお話でした。しかし、登場人物の女性はとても芯が強く、かわいらしいと思いましたし、一人でも生きていく姿にすがすがしくも思いました。
 しかし、現実はすごく難しいのだと思います。
 もし自分が車椅子生活だったら、自分に自身が持てるのだろうか、恋愛は仕事はどうなるのだろう…。考えてもキリがありませんでした。
 宗澤さんのこの記事を読んで、田部さんが旦那さんの介護生活を送っていたと知りました。
 愛する人を介護するとはどんな感じなのだろうと思いました。田部さんは旦那さんの生き方を尊重しつつ、最後まで一緒に頑張られたのだな、と思いました。また、だんだん充実させていったというところに驚きました。
 今、介護などは地域で取り組む、自助努力の方向へ行っているような気がしますが、介護をしている人の人生、介護に従事している職員の人の生活をより改善できるような政策が求められると思います。
 宗澤さんも疑問を呈しておらおれますが、介護予防や就労自立は限界があると思います。また利用する側が受身で、決められたものばかりでは自立もできないのではないかと思います。
 一人ひとりに合ったサービスを自分で選んで、充実した生活を送れるような社会にしたい思いました。
 私も将来介護をしたら、その人に田部さんの旦那さんの言葉のような気持ちになってもらえたらいいなと思います。


投稿者: ジョゼ | 2008年11月22日 23:39

 田辺さんとたご主人の介護関係を読んで、私自信も、80歳を過ぎた人に「リハビリを頑張れ!糖尿病だからあれもこれも食べてはいけない。」というのは、本人のためではあるのだけれど「どうなのかな?」と思う時があります。
 ある一人暮らしの高齢者が転倒して骨折し、病院でのリハビリを頑張って退院した。退院してから「病院でも家に帰ってからもみんなが自分に一人暮らしが続けられるよう頑張れ!頑張れ!と言う。私は今までもずっと頑張ってきた。頑張らんと歩けんようになると皆が言うけど、歩けんようになっても歳だから仕方ない。もう、私は、もう頑張れん!」と言ったのを聞いた事があります。
 介護する側だけでなく、介護される側も頑張り過ぎて無理がきてしまう事もあるのだろうと思う。
 田辺さんのご主人が脳梗塞の後、ほとんどリハビリを治療を受けることがなかったというのがご主人の「死生観」だったのかも知れないと書かれていましたが、はっきりとした「死生観」がなくてもその人なりの頑張り方を単純に選択させることも個人の尊厳の一つかなと感じます。
 まわりが早く元気になって欲しい。元のようになって欲しいと思うのは無理からぬことであるが、期待をかけすぎることも、介護サービスによって介護サービスの量や質が制限されることも型にはまったパッケージのようで個人を尊重してないように感じてしまいます。


投稿者: REI  REIより | 2008年11月26日 16:59

 「芋たこなんきん」見てました。
 田辺さんは、ご自分の夢をかなえたく、会社勤務をされながら、学ばれ、ついに受賞され、一躍有名に…その過程といい、ご結婚後の3人の子育て(思春期を含めて)家族6人の家事、作家の執筆活動といい、あのエネルギーはどこから湧いてきて、ストレスをどのように発散され、どのようにエネルギーを再生しチャージしているのだろう。と、思っていました。
 お忙しい中、少しの間でも、ご主人との時間を大事にされ、お酒が潤滑油となり、お二人の語らいの中で、生活観・人生観を共有されていたのだと思います。
 仕事と介護の両立が難しく、その現実をしっかり受け止めつつ外部サービスを積極的に活用され「生活の質」を図ったということですね。
 私も70歳を超えた両親4人いますが、可能な限り在宅医療で、和やかに家族と一緒に過ごさせてあげたいと思っておりますが、在宅医療を行う為の環境(実地医家・看護師・ヘルパー・ボランティア)が整備されているかどうかが心配です。
 後期高齢者医療制度、障害者自立支援法・介護保険等により、介護のためにヘルパーを頼むことで、仕事を辞めなくても良くなりましたが、将来、制度はあっても、ヘルパー不足でサービスが受けられないのではないかと懸念されます。
 また、自立支援では、サービスが受けたくても受けられない区分保障や就労の施設使用料等ノーマライゼーションから遠ざかっているように思えてなりません。
 サービスを受ける際、受ける側も主体性をもって、サービスをする側に、望んでいることをはっきりと伝え、する側も受ける人の身になって接すれば、お互いにわだかまりなく情報を正しく共有できれば、スムーズにいくのではないだろうか?と思います。


投稿者: melody kanon | 2008年11月26日 17:01

 最近テレビで放送していた番組で、記憶が少しずつなくなっていくご病気の奥様を、芸能人という多忙なお仕事の傍らで介護をしていらっしゃる旦那様の様子を見て、介護を経験していない私が失礼だとは思いましたが、とても素敵だなと感じました。
 結婚した当初はあまり奥様に構わず、女性関係も派手で迷惑をかけたとご本人がおっしゃっていましたが、奥様が介護を必要とされるようになってから二人の仲が縮まり、「今度は僕が彼女を支える番だ。」と笑顔で答えていた姿が忘れられません。
 人の記憶はだんだんと薄れていくものだとは思いますが、これから先たくさんの二人の大切な思い出を作っていって、幸せな人生だと奥様が思って頂けたらいいなと感じました。
 しかし、すべての方がそういった生活ができるわけではないと思いますし、やはり現在の介護に関する制度の問題点を感じずにはいられません。介護福祉士やヘルパーの仕事量に対する給与の低さなど、悪循環の元になっているものを、国が早急に変えていくべき課題として考えて欲しいものです。


投稿者: R&T | 2008年12月02日 12:09

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

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