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宗澤忠雄の「福祉の世界に夢うつつ」

保育所を利用して(2)

 保育所に通い始めた娘は、生後7か月。ちょうど母体からもらいうけた抗体が切れてしまう時期です。だから当分は、保育所でいろんな病気をもらってくるだろうと、親なりの予想と覚悟を踏んでいました。さまざまなウイルスや細菌に感染しながら、それらを跳ね返す免疫力を、自分の「生きる力」としてつけていくことの大切さを含めて理解していました。
 「われながら、子どもの理解に申し分のない親である」との自負心さえあったでしょう。
しかし、保育所に通い始めて2か月近く経った5月末のこと…

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 午後3時頃、職場で会議のさなかにあった私に、事務の人から「保育所から電話です」と連絡が入りました。案の定「発熱したからすぐにお迎えに来てください」とのこと。早速私は、子育て事情に無理解な職場を振り切って、保育所に向かいました。電車とバスを乗り継いで、2時間弱はかかります。

 夕方5時頃に保育所に到着し、園医をしていただいている小児科の診察を受けました。体温と全身症状をていねいに確かめたあと、「おそらく風邪でしょう」となりました。これでお薬が出ればお仕舞いと思いきや、医師は「あっ、耳をまだ診てませんね」と、専用の医療器具で娘の耳の奥を覗きこみました。
 「これは中耳炎です。これからすぐに耳鼻咽喉科にかかってください」

 ネクタイをはずした背広姿のいでたちに、だっこ紐でお腹に娘を抱え、歩いて耳鼻科に向かうことになりました。バス通りから外れ、タクシーも通らないところだからです。30分ほどで耳鼻科に到着しました。
 この時点では、私の親としてのスピリットは意気軒昂そのものです。乳幼児期の中耳炎は、しっかり治療してやらないと後遺障害を残すリスクもあるという知識もあり、やはり「われながら、子どもの理解に申し分のない親である」と。

 ぐずり気味の娘を絵本であやしながら、待合室で待つこと40分。ようやく、診察台に娘を抱えた格好で、治療が始まりました。乳児の耳穴と鼓膜はいかにも小さいですから、「頭が絶対動かないように、しっかりと押さえていてください」という医師の指示。そのくらいの腕力は余裕です。
 ところが、私が娘の頭を押さえつけた途端、娘はあらん限りの声を振り絞るように、「ビェ~、ビェ~」と泣き叫びます。この元気な泣き声に、医師は辟易したのでしょう、今度は私に説教を始めました。
 「1歳にもならない子どもを保育所に預けるとは、親としてどういう了見なんだ」
 「診察台の子どもの様子をみれば、親の躾がちゃんとしているかどうかが分かる」
 もうここは「忍の一字」しかありません。泣き叫ぶ娘と説教を垂れる医師については、ポエケー(判断中止)と心決めし、ただひたすら治療の終わりを待ちました。

 医院を出たのは夜の7時半近くです。普段の、娘の就寝時刻です。駅前まで歩いて出てからタクシーを拾い、帰宅の途に着きました。私は汗かきなので、ワイシャツはおろか、背広まで汗でぐっしょり、もうへとへと。親のスピリットは萎え、自負心はどこへとやら… すぐに、娘の体を清拭し、ミルクを呑ませて寝かしつけました。

 娘はいささかぐったりしてはしましたが、ほどなくスヤスヤと寝息を立ててくれました。その姿を前に、ホッと安堵が訪れるとともに、ドッと一日の疲れがこみ上げてきました。「これからどんな苦労があるのやら…」との想いが私の頭を過ぎったのを最後に、私も翌朝まで爆睡しました。
 それ以来、私は仕事にもジーンズに綿のシャツ類と決めこみ、職場のロッカーには必要に応じて着替えるための背広一式を吊るしておくようになりました。


コメント


 子どもを育てるという事は、本当にいろいろな経験をすると同時にさまざまな思いをする時期であるように思います。このブログを読んで、先生が必死に子どもさんを抱え、汗びっしょりかいている姿が自分の子育てしていた頃と重なり思い出されます。子育ては、いろんな経験やさまざまな思いをしながら、子どもが日々育っていくのと同時に私たち親自身もいろんなことを学ぶように思います。子どもと一緒に泣いたり笑ったり、子どもが辛そうな思いをした時は、自分の親としてのふがいなさを感じ自分を責めたりもしました。仕事を休めない時は、昼休み一度家に戻ったり、きびしい上司に頭を下げ早引きをし病院へ走ったり、現在よりもっと育児に対する理解が遅れている社会であった当時では、本当に悪戦苦闘でした。子どもたちが育ちあがった今となっては、幼い時から成長していく段階でそれぞれ懐かしい想い出が、時々ふっと想い出されます。私自身の今までの人生の中で仕事もですが、子育てが一番頑張ったことではないかと思います。もう少し子育てを大事に考える大人、地域、社会が必要ではないかと感じる今日この頃です。子育ては、子どもを育てていると同時に私たち大人も、子どもたちに教えられているのかもしれません。


投稿者: さくら号 | 2008年12月08日 23:11

 私は子どもを育てたことはありませんが、友人などの子育てを見てきて「子ども」でなかったら自分自身が壊れてしまうのではないかと思ったことがあります。
 親戚の中に現在3人の子どもを持つ母親がいるのですが、3人目の子が生まれた後に1番上の子が障害を持っていることが発覚しました。それからいろいろとすることが増えたようで、私は「初めから分かっていたら…。」と思いました。それならどうこうというわけではないのでしょうが、そう思ってしまいます。片方が仕事にでて、片方が育児をすることが理想であると思っていました。しかし経済的にも会社的にも難しい状況で仕事と育児の両立がもう普通のようにも感じます。
 今虐待の問題も多く存在している中で、子育てを負担に感じることをなくすにはやはり家族、周囲の人の協力であり、支えであり、社会福祉の充実であると思います。


投稿者: yuki. | 2011年01月12日 14:19

※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
宗澤忠雄
(むねさわ ただお)
大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

【宗澤忠雄さんご執筆の書籍が刊行されました】
タイトル:『障害者虐待 その理解と防止のために』
編著者:宗澤忠雄
定価:¥3,150(税込)
発行:中央法規
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