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梶川義人の「虐待相談の現場から」

虐待ライフコース

 私の担当編集者の方は、いつも私の記事の感想を下さいます。その感想に触発されて原稿を書くことも多いので、とても感謝しています。ここ3回は研修会の報告をしましたが、まとまりの無さを感じていたところなので、頂いた感想を元に、まとめの記事を書くことにしました。

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 一つ目は、従事者による虐待について、「施設内虐待の調査結果をみると、虐待発生要因について、虐待者個人の資質を要因とする傾向があるようだが、組織体制や業務の在り方などの組織的な問題は、どうなっているのだろうか」です。とても重要な問いだと思います。

 一般に、虐待が蔓延でもしていない限り、特定された虐待者個人だけに注目しやすいからです。しかし、発生要因の第1位に挙げられた「教育・知識・介護技術等」や、第2位の「職員のストレスや感情コントロール」の問題に、組織的な問題はどう関わるか考えないのでは、到底、実態に迫ることはできないでしょう。

 宗澤忠雄先生は、ご自身のブログ『「何のため」の喪失(2014年01月20日)』で、ある営利事業者の研修が『介護については「笑顔でいれば相手も笑顔になる」という漠然としたことだけだった』事例を紹介しておられます。ここまでデタラメではないにせよ、外部からの評価が低い出身者しか輩出できないような組織で虐待が発生したのなら、何らかの組織的な問題があるとみるのが妥当だと思います。

 「いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)」が必要になったのは、私たちが、組織的のあり方など見えにくい問題を、反故にし続けてきたからなのではないでしょうか。ですから、せめて、発生要因を、個人、組織、個人と組織、いずれもの観点から検討するくらいはしたいものです。

 二つ目は、養護者による虐待について、『「弧族」や「無縁社会」の問題は、現状では当人の希望というより、社会的に排除されたり、考慮されたりしない環境・制度面を問題視しているが、「まだマシ」ということで孤族や無縁をあえて選択する人が多い(多くなる)のかなと考えてしまう』、「地域性、とくに東西による家族観の違いなどの影響は?」というものです。いずれも、とても鋭いコメントだと思います。

 というのも、私は、「虐待ライフコース」ともでも言うべき人生行路は幾つもあり、コメントはその一面を、見事に言い当てている気がするからです。

 ライフコースは、出生、就学、就職、結婚、出産、子育て、就業、退職、老後、死亡といった幾つものライフイベントの積重ねです。そして、ライフイベントは、身の処し方を選べたり選べなかったりする「岐路」のようなものです。社会や環境や制度の側面あるいは地域性は、この部分に深く関与しますが、辿り着く先が虐待の当事者なら、道筋は違っていても、みな虐待ライフコースなのだと言えます。

 虐待は、「被虐待者の条件を備えた者と、虐待者の条件を備えた者が、隠蔽性の高い密室のなかで、一緒にいる」という構図のなかで好発しますから、そこに至る虐待ライフコースのダイナミクスやメカニズムを解明すれば、取組み全体は飛躍的に前進させられます。

 三つ目も、養護者による虐待についてのコメントで、「同居家族内では、虐待に至らないまでも、多くの家族のなかには、相当な緊張があるのではないか」です。従事者による虐待にも当てはまりそうで、示唆に富んでいると思います。緊張状態が虐待の前兆なら、この点に着目すれば、一次予防や三次予防を大きく前進できるからです。


※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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