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梶川義人の「虐待相談の現場から」

人を育てる

 先日、病院の職員を対象に人権研修を行ってきました。そなかで、虐待者の多くは無自覚であるとお話しをしたところ、「無自覚な職員にどうやって気づかせればよいのだろうか」というご質問を頂きました。このブログでもご紹介してきたようなことを、かいつまんでお答えしましたが、「人を育てる」ことについて改めて考えるよい機会になりました。

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 私は、大学や短大でも教壇に立ってきましたが、従事者研修では、学生に対するのと異なる教授法をとります。最も大きな違いは、従事者の現場経験を活かすように配慮する点です。具体的には、講義は参加者の経験を通して理解できるものにしたり、体験事例を用いたグループワークやディスカッションを行ったりすることです。

 養護者による高齢虐待に関する研修の場合、虐待事例への対応経験の差は大きいと思います。ほんの数件でも対応経験があると、研修内容がいちいち思い当たるのに、未体験の場合は、「まったく雲をつかむようだ」というくらいに違うからです。

 また、対応するうえで求められる役割が、職種や所属によって異なる点も見逃せません。発見ひとつとっても、虐待の種類と職種や所属の組み合わせで、気づきやすさが違うからです。

 ですから、本来なら研修は、対応経験や職種や所属が同じような属性の人々を対象にするのが、最も効果的だと思います。

 ところで、対応の段階を大雑把に分けると、発見、情報収集、事前評価、対応計画立案、対応計画実施などになります。以前、この枠組みを用い、虐待事例への対応経験別に初級者、中級者、上級者に分けて、効果測定を行ったところ、次のようなことが分かりました。

 初級者は、講義を聴いて知識を得られたなら、発見と情報収集までは自信を持てるが、事前評価以降の段階までは自信が持てない。

 中級者は、知識の獲得だけではなく技能を磨く演習なども加えると、発見から対応計画立案まで自信を持てるようになる。しかし、対応計画実施までは自信が持てない。

 上級者は、案外、自分の技能に不安をもっているため、技能向上のトレーニングを積むと、自信をもって全段階をこなせるようになる、といった感じです。

 私は、このことを踏まえ、研修内容を考えています。しかし、自分ができることと他者をできるようにすることでは、かなり違うので、そのためのノウハウの必要性は、ひしひしと感じています。

 スーパービジョンやコンサルテーション、あるいは、従事者による高齢者虐待の防止にも通じるでしょうが、ノウハウの蓄積やレベル向上は、喫緊の課題だと思います。研修を終えた帰りの電車のなかで、「ああすればよかった」、「こうすればよかった」と何度悔いたことか。

 そのためにも、私はかねてより、虐待に対応する者の養成には、「科学者―実践者モデル」を採用するとよいのではないか、と考えてきました。これは、米国で生まれた臨床心理士の専門性を示す理念で、臨床心理士は実践性と科学性を併せ持つべきであるという意味です。これなら、能力を「自律的」に高めていけます。

 もちろん、そうなれば、待遇面もそれに見合ったものを目指したくなるのが人情です。「名選手必ずしも名監督ならず」というわけで、よく管理職コースと専門職コースに分け、往々にして管理職が沢山報酬を貰うことが多いようですが、監督より沢山報酬を貰っているスポーツ選手は沢山います。やはり、レベルの高い専門職となれば、報酬もそれなりでないといけないと思います。

 もちろん、社会的合意が得られないとはじまりせんから、相当頑張らないといけません。しかし、皆がこのモデルを目指すようになれば、人はグングン育っていくのではないでしょうか。


※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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