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梶川義人の「虐待相談の現場から」

型より入りて型を破る

 同業他社に転職した介護職員からこんな話を聞きました。「以前は、介護の手順が決まっていて、何度も練習させられた。でも、今は、みんな手順がバラバラ。でも、スピードだけは早く、以前どおり手順をふむ自分では追いつかない。周囲からひんしゅくをかうが、今のやり方では、事故を起こしそうで気が気でない。」というのです。

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 こうした、介護方法の違いに関する話は、実習生からもよく聞きます。私は、そのたびに、手順を定めることと、手順を実行するためのトレーニングについて考えます。

 まず、手順を定めることについてです。一言で介護といっても中身は多種多様です。機械的なものなら細かい部分まで手順を定められますが、認知症の方への対応方法などは、あまり細かい部分までは手順を定められません。

 そのため、大雑把で漠然とした部分は、施設によっても人によっても、やり方がバラバラになりやすいといえます。では、細部に至るまで手順が定まっていれば良いかというと、決してそうではありません。その手順が本当に最良なのか問われるからです。

 EBC(Evidence-based care)という言葉があります。科学的な根拠に基づいて診療方法を選択するEBM(Evidence-based medicine)から転じ、「科学的根拠に基づくケア」を意味します。この場合、「最良」の根拠を、最新の科学的な実証に求めます。ですから、手順を定めるなら、このレベルのものになると思います。しかし、あまりハードルをあげると、クリアするのが難しいようにも思います。

 そこで、ご紹介したいのは次の例です。A老人ホームでは毎年、介護マニュアルを、ハンドブックサイズにして介護職員全員に配り、皆の意見をもとに改訂を加えています。B市でも、高齢者虐待の対応マニュアルを、ハンドブックサイズにして関係者全員に配り、より多くのアイデアを得て改訂しようとしています。いずれも、皆の知恵を集めてより良い標準化を目指しているところが素晴らしいと思います。最新の科学的な実証はともかく、こうした努力を経て定められた手順には、大きな価値があるのではないでしょうか。

 つぎに、トレーニングについてです。走るにしても、泳ぐにしても、踏む手順に変わりはありません。ところが、タイムには大きな差がでます。才能もありますが、多くはトレーニングの質と量による差です。一流のアマチュアやプロのトレーニングともなれば、その人の能力を、最大限に引き出すよう、体系的に非常によく考えられています。本来なら、介護や虐待の対応のトレーニングも同様でありたいところです。

 この点で、私は、華道や能の「型より入りて型を破る(型を出づる)」という教えが気に入っています。まずは型を倣って基礎力をつけ、そこから工夫を凝らして独自の境地を切り開いていくというわけです。こう考えれば、何かと定まらない手順とトレーニングの問題も、少しスッキリと整理できそうな気がするのですが。


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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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