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梶川義人の「虐待相談の現場から」

記録は自ら記録する者を助く

 ホームヘルパーさんからこんなことを言われたことがあります。「息子から罵倒されて老母が泣いているのを背にして、自分はただ仕事をこなすだけ。無力さを感じてとても切なく、やりきれない」。
 確かに、限られた時間内に、すべきことは山積みなうえ、よほどでない限り仲裁すらできませんから、切なさはひとしおだと思います。

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 同じような嘆きは、民生委員やケアマネジャーの方からもときどき聞きます。きっと、虐待事例に関わる方なら、どなたも同じような経験をしておられるのかもしれません。
 人は、痛ましい出来事に遭遇するたびに、心の傷が増えていきます。時には、責任がないのに無力な自分を責めもします。ですから、放置しないで、ちゃんとケアをしたいところです。

 しかし、本当に無力なのでしょうか。

 私は、こういう話をうかがうと、いつも持論をお伝えします。それは、「お気持ちは察してあまりありますが、決して無力ではないと思います。それは、簡単には目撃できない事実を記録できるからです。記録は、対応の有力な根拠となりますから、記録することで大いに貢献できるのではないでしょうか」というものです。
 これは、気休めではありません。「記録したいので、虐待の場面を再現してみてください。はい、はじめ!」とはいかないのですから。

 もっとも、多忙のなかできちんと記録をするのは大変です。

 私は、研修でよく記録の演習を行います。二人一組になって3分ほど面接の役割演技をした後、様子を記録するというものです。
 延べ数千人の方にやって頂きましたが、記録を数分で終えた人は数えるほどしかおらず、ほとんどの人は、10分から15分はかかります。
 これでは、1時間の面接を記録するのに3~5時間かかる計算ですから、おおいに工夫の余地がありそうです。

 工夫のヒントは、記録の良し悪しが、妥当性と信頼性で決まる点にあると思います。つまり、的外れでない事実をコンパクトにまとめさえすれば良いわけです。

 妥当性は、記録の目的次第です。対応の経過を記録するなら、記録の様式や体系は、対応のマネジメント・サイクルに沿うのが自然です。そして、記述の基本形式を、「◯◯の事実を◯◯と判断、◯◯したところ、◯◯となった。」とすれば、妥当性はぐんとアップします。
 信頼性を上げるには、「読み手が書き手と同じことをイメージできること」を意識すると効果的です。「いいお顔」が「笑顔」や「微笑」に代わって、信頼性も格段にアップです。

 こうして、わかりやすく整理された記録は、説得力が増すので、事故などに際し、自分の身の証を立てるためにも役立ちます。

 昨今、メディア機器や情報通信技術の進歩には目を見張ります。これらを活用しない手はありませんが、「そんな余裕はない」とお嘆きの方には、メモにひと工夫するのがおすすめです。廉価で記録の効率化が図れます。

 たとえば、野帳(フィールド・ノートとも言います)です。これは、旅先のスケッチや測量など、出先で記録するためのノートですが、立ったままでも書けるように表紙が硬い、フラットに開けるので、見開きで一枚として書ける、少々の雨でも文字がにじまない、用途に応じて方眼紙や罫線や白紙などのスタイルが選べるなど、随所に工夫がしてある優れものです。メモに使うと、記録がはかどります。

 職人さんは道具に拘るものですが、私達も、記録の道具に拘りたいものです。


※コメントはブログ管理者の承認制です。他の文献や発言などから引用する場合は、引用元を必ず明記してください。

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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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