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梶川義人の「虐待相談の現場から」

当事者みんなの物語

 千人の当事者事例には千の物語があり、百の事例には百の物語があります。しかし、沢山の事例に関わってくると、多くに共通している、「みんなの物語」も浮かび上がってきます。

 ところで、養護者による高齢者虐待の虐待者で最も多い続柄は息子です。厚生労働省が高齢者虐待防止法に基づいて毎年行っている調査によれば、40%超程度で推移していますから、突出した不動の第一位だといえます。そこで、今回は、この息子を主人公にした物語をご紹介します。

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 さて、時は昭和30年代半ば。まさに、西岸良平氏の漫画作品『三丁目の夕日』の時代、日本は高度経済成長期を迎えます。男性たちは、朝早くから夜遅くまで一生懸命働きます。頑張って働けば豊かになれますし、「今度こそは絶対に負けられない」という、敗戦国民の意地とプライドもありますから、仕事へのモチベーションは非常に高かったのです。

 他方で、少子化もはじまり、母子の結びつきが強まっていきます。家庭での実権は、既に、出征していた父親や夫から母親や妻へと移っていましたし、男性は仕事で不在がちだからなおさらです。また、イエ制度の名残りがあり、子育てに不慣れなこともあって、多くの母親は長子に対して過干渉ぎみになります。

 母親の過干渉な養育は、息子を母親に依存させ、息子の主体性が育つ妨げとなります。そして、息子は、体裁だけを生真面目に繕ったり、何でも人のせいにしたり、見通しが甘かったり、いつも有言不実であったりと、ちょっと困った傾向を強めていきます。

 過干渉・依存の母子関係が強く、息子に反抗期がないほどだと、息子の巣立ちに差し障ります。不登校、登社拒否、結婚の失敗などの一因となるからです。また、何とか自立しても安心はできません。後年、問題化することがあるからです。嫁姑葛藤の調整役になれず浮気に走ったり、介護をする妻の不満を受け止めきれず親に暴力を振るったり、リストラを乗り越える逞しさがなくて酒に溺れたりです。

 しかし、妻や子にすれば、こんな逃避的な夫や父は不要です。そこで、息子は熟年離婚で放擲されて行き場を失い、実家に舞い戻るという憂き目もみます。一方、戻った実家では、かつて強くて威厳のあった父は他界しているか要介護状態であるため、相変わらず過干渉な老母とそこに依存する息子のペアができてしまいます。

 老母は、息子の不安や悩みなど、触れられたくないことにも積極的に干渉します。「○○ちゃんは、やればできるのだから」などと。これに対して息子は、暴言や暴力で反撃したり、一発逆転を狙ってギャンブルにはまり親の年金を搾取したり、要介護の老親をネグレクトしたりします。こうして、高齢者虐待に陥っていくわけです。

 「みんなの物語」は、時代背景を踏まえるとリアルさを増します。年表などで、政治、経済、文化、芸能、スポーツ、流行、生活様式などを確認するだけでも充分ですが、私は、地域柄も踏まえるようにしています。こうすると、脳裏に映像が浮かび、よりいっそうリアルな感じになります。


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プロフィール
梶川義人
(かじかわ よしと)
(仮称)日本虐待防止研究・研修センター開設準備室長、淑徳短期大学兼任講師。
対応困難事例、家族問題担当ソーシャルワーカーとして約20年間、特別養護老人ホームの業務アドバイザーを約10年間務める。2000年から日本高齢者虐待防止センターの活動に参加し、高齢者虐待に関する研究、実践、教育に取り組む。自治体の高齢者虐待防止に関する委員会委員や対応チームのスーパーバイザーを歴任。
著書に、『高齢者虐待防止トレーニングブック-発見・援助から予防まで』(共著、中央法規出版)、『介護サービスの基礎知識』(共著、自由国民社)、『障害者虐待』(共著、中央法規出版)などがある。
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