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環境を変えると、子どもの行動が変わる!


「建築士×精神科医」という異色のコンビ

 2014年に行われた国際福祉機器展(HCR)の子ども広場で、興味深い展示が行われていました。横浜市総合リハビリテーションセンターの建築士、西村顕さんによる、発達障害のある子どもの住宅の安全対策についての展示でした。

 西村さん撮影の住宅改修の写真は画角もピントも申し分なく、そのまま本に使えるのではないかと思い(それは当たりました)、その場で西村さんに後日お会いするアポをとったことが、本書の企画の発端となりました。

 西村さんの取り組みを医療や療育的なかかわりの面から支えていたのが、超売れっ子の精神科医、本田秀夫先生(信州大学医学部附属病院)でした。思いがけず、もう一人の著者として本田先生が現れてご執筆をいただけることになり、驚くやら嬉しいやら。

 医師が入ることで、本書の信頼性をより高めることができましたし、行動に問題を抱える子どもたちを温かく見守る本田先生の姿勢が、本書の全般に投影されていると思います。

困難事例の数々に大変さを実感

 西村さんの仕事は、身体障害者や高齢者の住環境の相談対応がメインですが、本田先生の患者さんでもある発達障害のお子さんの家での行動の問題について、お二人で親御さんたちと一緒に試行錯誤を10年続けていました。

 相談の例としては、子どもが外へ飛び出して戻らず捜索願を出した、2階から飛び降りてカーポートを突きやぶって車をへこませて脱走(?)した、電子レンジに乾電池を入れて小火を起こした、トイレに家のカギを流してしまったなど・・・、挙げればきりがありません。本書の口絵や「おわりに」もぜひご覧いただきたいと思いますが、こうした行動の問題があるお子さんの子育てはとてつもない苦労とストレスの連続であることを痛感し、本人(理解や適応ができずに困っていることもある)と保護者のために、西村さんたちの実践を集大成しようと考えました。

本書の特長と、活用していただきたい人

 本書は「住まいの工夫」とは言っても建築家向けの専門書ではありませんので、保護者や福祉関係者にとって親しみやすく、内容をぱっと見て理解してもらえるように、口絵や本文に多くの写真とイラストを掲載して、問題の所在や対応策についてイメージを持っていただけるように工夫しました。イラストの子どもたちも愛嬌があり、たいへん好評です。

 保護者や療育関係者はもちろんのこと、障害児の入所施設、放課後等デイサービスなどの職員、発達支援センターの相談従事者、特別支援教育に関わる先生、建築士・工務店の大工さん、作業療法士や福祉用具の相談員などにもぜひ活用していただきたいと思います。また、強度行動障害への対応を学ぶ研修や、障害当事者の会の支援者の研修などでもご活用いただけると思います。

環境整備とコミュニケーション支援を両輪に

 知的障害や発達障害のあるお子さんは、それぞれに少し特有の認知と行動の特性があると考えられますので、彼らのもつそうした特性にまわりの環境をフィットさせ、見える部分を変えたり、刺激を限局したりするという方法が有効なことがあります。具体的には、カギや格子戸、スイッチカバーなどを設置して、使い方のルールを家族で決めることが大切です。「環境」というと大げさですが、「見え方」を変えるだけでも子どもの行動が変わるのです。

 さらに大切なことは、子どもが一緒に生活する親や近しい人とのコミュニケーションを図れるように育てていくことです。本書では絵カードなどを使ったコミュニケーションの方法にも随所で言及しています。その子に合った、環境整備とコミュニケーション支援の方法を本書の中から探していただければ幸いです。

(中央法規出版 第1編集部 荒川陽子)

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