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おしゃべりな足指 障がい母さんのラブレター

脳性まひを抱えて生きる、終わりなき自己実現の物語


36年前の写真を表紙に

 本の表紙をご覧ください。足指でタイプライターを打つ印象的な写真を使いました。これはプロカメラマンの中田輝義氏の作品です。中田さんは小山内さんを撮影するときは、臨場感を出すために低速度シャッターでも、自然光のままで撮影しました。どうでしょう。ストロボ一発では出ない味があり、私は一目見てカバーに使いたいと思い、そこからタイトルを検討していきました。

1981年は…

 この写真のオリジナルは1981年に出版された『心の足を大地につけて-完全なる社会参加の道-』に収載されています。1981年という年は国際障害者年であり、世界中でノーマライゼーションが叫ばれました。小山内さんも「研究生活」と名付けた自立に向けた生活を行いました。障害者だけでアパートで暮らすという試みを行ったのです。『心の足を大地につけて』はその研究生活を記録した1冊です。この本を出版したノームミニコミセンター代表の西村秀樹氏は、札幌の小さな出版社でありながら、国際障害者年の意義と重要性に着目し、赤字覚悟で本を刊行しました。そして、カメラマンの中田氏も、西村氏の心気に共鳴して、ほとんどボランティアで撮影に協力したそうです。当時、障害者本人だけでなく、彼らの思いに共感した多くの人々の支援や協力があって、今日のノーマライゼーションが実現されてきたのだと思うと、胸が熱くなります。

「欲望を捨ててしまうと、ただの障がい者です」

 小山内さんとタイトルについて話し合っている時、私は「小山内さんは、人からどんな人だと言われますか?」と質問しました。「私のことを欲望の塊と言った人がいます。強欲の強い子でした。今も変わりません。でも、障がい者は特に欲望をもたなければなりません。欲望を捨ててしまうと、ただの障がい者です」と答えられ、私は妙にしっくりきて、これが小山内さんが人々に愛される理由なんだと思いました。

 もちろん、自分だけの欲望なら誰も見向きもしませんが、小山内さんの欲望は障がい者全員の欲望でした。多くの障がい者が欲望を抱えながら声にすることもできず、大部屋に閉じ込められていた時代に、自立して暮らしたい、恋愛も、結婚も、子育ても、仕事だってしたいと小山内さんは立ち上がったのです。それは、障がい者全員の欲望を叶えたいという志高い戦いでした。だからこそ、多くの方が共感し、応援したのだと思います。本書の帯を書いてくださった黒柳徹子さんもその一人でした。本書はそうした小山内さんの力強い歩み、自立した生活を勝ち取っていくための軌跡を収めています。その歩みを知ることは、障がい者福祉の歴史を学ぶことにもなるでしょう。

こんなケアを受けたい

 小山内さんの欲望は制度的なことだけに収まりません。ケア提供者(ヘルパーさん)にも、このようなケアをしてほしいと、具体的に提案しています。朝のケア、食事、入浴、トイレ、外出時、お金の管理、コミュニケーションの取り方など、12項目でヘルパーさんに望むことを書いています。これから介護の道に進む人にはぜひ読んでいただきたい内容です。

これからも希望の轍を刻んでいってほしい

 63歳になった小山内さん。障がい者から、障がい高齢者になろうとしています。65歳になると、障がい者の制度から高齢者の制度に移行し、使えるサービス量が減ってしまうことを心配しています。でも、小山内さんは黙っていません。「屋根のない福祉」を目指して、障がい高齢者として、ますます声をあげていくはずです。私はそれを応援します。小山内さんが車いすで歩んできた足跡は、これまでも、そしてこれからも障がい者たちの希望の轍なのだから。

(第一編集部 寺田真理子)


おしゃべりな足指 障がい母さんのラブレター

著者:小山内美智子
編集協力:杉本裕明
サイズ:四六判 286頁
価格:1500円(税別)