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高次脳機能障害のある人の地域生活を実現するチームアプローチの鍵――


 『脳外傷者の社会生活を支援するリハビリテーション』(永井肇=監修/阿部順子=編著)が弊社から出版されたのは1999(平成11)年11月。これは、当時名古屋市総合リハビリテーションセンターで取り組まれていた脳外傷後の後遺症(高次脳機能障害)のある人の症例やリハビリテーションの過程、生活・就労支援の実践をまとめたマニュアルで、当時、類書はほとんどありませんでした。それから17年の時を経て、本書が誕生しました。

 当時に比べれば、受傷後の医学・認知リハビリテーションなどの成果はあがっているといわれていますが、病院・施設を出て在宅に戻ると、「前とは違う様子に戸惑う家族」「なかなか自分の状態を受け入れられずにいる本人」「高次脳機能障害という障害の存在や特徴を知っていても支援の方法がわからず悩む支援者」――高次脳機能障害のある本人や家族を取り巻くこのような地域生活の現状は今も課題として残されています。それに加えて、最近では介護者である家族(親)の高齢化による「親亡き後」も大きな課題となっています。

 本書では、それらの現状を受けて取り組まれてきた名古屋リハでの研究事業の成果をベースに、高次脳機能障害者への効果的な支援のあり方やヒントカード・支援手順書などの支援ツール、さらには自立生活に向け、本人のもつ力を活かしながら、チームで行う生活版ジョブコーチ手法を用いた具体的な支援方法を紹介しています。なかでも家族や支援者が悩む症状の一つ「社会的行動障害」への対応(4章)、サービス提供事業所、相談支援事業所での取組みや精神科医療との連携(6章)などは、事例もあり読み応えがあります。また、別冊に収載した「高次脳機能障害の疑似体験」など3つの演習は、事業所内の勉強会や研修等で広くご活用いただけるものです。

 今回、名古屋リハでの実践を軸に、高次脳機能障害のある人の支援にかかわる精神科医、相談支援専門員、サービス管理責任者等、多様な専門職の方々を執筆陣に迎えることができました。それぞれ所属や専門は異なっても、支援の基本にあるのは「本人の力を信じ、本人の思いを実現するために寄り添う」ことに加えて、「チームで統一したブレない対応が本人の自立につながる」ということでした。さらに進化をつづける名古屋方式の支援。高次脳機能障害のある人の支援に携わる方におすすめしたい一冊です。

(第2編集部編集第3課 佐藤亜由子)