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日本の医療制度がこの一冊で俯瞰できる


 本書は、厚生労働省保険局保険課長、医政局総務課長などを務め、行政の立場から日本の医療政策を推進されてきた筆者が、京都大学院法学研究科・公共政策大学院での講義をもとに、日本の医療の現状と課題、医療保険や医療提供体制の諸制度など、日本の医療政策全般について包括的に解説したものです。

 「政策論」という分野は、一見すると、ジャーナリスト、政治評論家といった人々が語る分野という先入観がありますが、そういうイメージのために、断片的なものが多く、一つの分野を体系的に整理して議論したものは必ずしも多くありません。しかも特定のトピックを取り上げて、その背景などが議論されるだけのことが多く、物語としては面白いものの、たとえば公共政策の専門家を目指す場合には、いろんな本を「手当たり次第に」読まなければならないということも多いのではないでしょうか?

 また、たとえば、各種の政策を実現するためには、法制度に落とし込まなければならないわけですが、ここには、実にさまざまな政治的なプロセスが介在しています。たとえば行政機関における政策の原案の立案、与党内での検討、与野党間の折衝、さらには、法案の実施に伴う国と地方公共団体の責任の分担をめぐるやりとりなどです。

 この過程全般を理解することは、それほど簡単なことではありません。そして、かつてはこの過程を説明する「立法の趣旨」などを解説する書物などが多数出版されていた時代がありました。しかし、立法と行政との役割分担については、微妙な見解のズレがあり、政治的に争点化することもあったために、この種の出版物の刊行が少なくなっています。

 本書はそうした状況のなか、制度の現在の姿だけでなく、現実の課題に対しさまざまな要因・制約の下で政策が形成され制度が変化していく過程が理解できるよう、医療政策形成過程と最近の医療制度改革の動向、諸外国の医療制度との比較や医療政策に関する情報の入手方法を取り上げるとともに、重要事項についてコラムで解説するなど、読者の理解を深めるための工夫がなされています。

 医療保険制度をめぐる制度改革が急ピッチで進んでいるなか、本書を読むことで、医師、看護師、薬剤師、介護福祉士などの、医療・介護・福祉関連の専門職従事者の方々には、国家試験対策だけではない奥行きのある知識を得ることができることと思います。

 また、さらに地方公共団体の職員の方々にも、ぜひ本書を手に取っていただきたいと思います。かつては、本書の類書が数多く出回っていたので、多くの職員が本書にあるような内容を知識としてもっていましたが、近年この種の類書は、試験対策として読まれることはあっても、一般教養として読まれることが少ないのではないでしょうか。本書を読むことによって、関連分野の幅広い教養を身につけることができ、今後の業務を深めることができると思います。

(中央法規出版 第1編集部 相原文夫)

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